全通したら行こうという人に来てもらいたい
杉山 : 千頭の転車台を川根温泉笹間渡に持ってきちゃって、トーマスをいつも前向きに走らせちゃおうとか。そういう方法もあるかもしれませんけれども。
鳥塚 : そうですね、敷地がどうだとか、そういうスペースがあるかどうかっていうことはまた別としてですね。いつまでも中途半端な状態ではいけない。なぜなら、大井川鐵道は不通区間があるから、全線復旧してから行こうっていう人、様子見の人たちが、もしたくさんいるとしたら、「様子見している間にこの鉄道はダメになっちゃうよ」って発信していくほうが先決じゃないですか。
杉山 : 所信表明っていうか、大井川鐵道をこうしていくんだっていうメッセージを出していかなくちゃいけない。
鳥塚 : そうですそうです。きちんと直していくってことが大前提なんですけども、じゃあそれが果たして いつまで協議してて、今もう丸2年ですか、9月で。長引くせいで、営業会社のキャッシュも減っていくし、お客さんは直ってから行こうって思ってるし、っていうんであれば、もう直しませんって宣言しちゃったほうがいいんじゃないのっていう考え方もあると思うんですよ。
杉山 : 土砂崩れが直ってから行こうって言ってる間に、会社本体が崩れちゃったらどうすんですかって話になっちゃいますね。
鳥塚 : だからその辺は見極めなきゃいけない時期は来ると思います。ただ、沿線地元自治体も含めてですね、いまはなんとか直そうっていう勢いになっているみたいなので。だから、なんとかなるんじゃないかなと思います。
杉山 : 直そうっていう勢いに水かけるようなことしてもしょうがないですもんね。
鳥塚 : 静岡知事選があって、知事が変わって、議論がストップしちゃってる部分もあるんですけど。でも、やっぱり直そうっていう意思表示は県からも感じるもんですから。うまくいくんじゃないかなと。
地域輸送はどうするか?
杉山 : いすみ鉄道でもトキ鉄でも、鳥塚さんは地域と連携をしていくっていうやり方をずっとされていました。大井川鐵道は2014年に普通列車減便で観光に特化したダイヤ改正をしています。その結果、沿線自治体は通学輸送向けにバスを購入して、ますます地域輸送から遠ざかっています。
鳥塚 : 大鉄(大井川鐵道)の場合は、地域輸送は売上に対して5パーセントとか10パーセントになってますから。地域輸送という切り口でいくとお金も出ないし、バスでいいんじゃないのっていう話にもなるんです。でも、輸送だけじゃなくて、地域に貢献するって方法はあるんです。僕はずっといすみ鐵道でやってきたのもそうなんです。輸送以外でも地域に貢献できるでしょっていうところをどうやって、見える化していくかでしょうね。
杉山 : 大井川鐵道はSLの他にも電気機関車や客車を使った施策を実施していて、観光客や鉄道ファンに知名度はあります。でもやっぱり、鳥塚さんが来たからには、鳥塚オリジナルのなにか新しいアイデアとか施策とかを期待してしまいます。
鳥塚 : それはね、いろいろなことは考えてはいます。ただ、いきなり言い始めても、「なんだあいつ」って言われるだけなんで(笑)。とりあえず、会社の中の体制をきちんとしたいなとは思ってます。
せっかくだから車両の話
杉山 : 鉄道ファン向けのニュースサイトなので、ちょっと車両の話をしましょう。ブログで紹介されていたC10の8号機の話は面白かったです。高校受験の間に国鉄から蒸気機関車が引退してしまい、岩手県宮古市の工場の専用線でSLが走っていると知って見に行った蒸気機関車がC10の8号機。それが大井川鐵道で現役という。
鳥塚 : ご縁ですね。ただ、感動の再会と言うほどでもなくて、8号機が来てるのは知ってましたし、大鉄には何度も訪れていて、大事にされてるのも知ってました。ご縁っていうのは不思議だなとは思いますね。僕の思い出の機関車がいまでも頑張ってんだから。じゃあこっちが一生懸命応援しなきゃいけないなっていう感じです。
杉山 : 他の車両には何か思い入れがありますか。
鳥塚 : やっぱり旧客(旧型客車)はいいなと思います。南海の電車もあるし、東急もあるし、京阪も近鉄もある。ちょっとバラエティに富みすぎてるなっていう感じはします。
杉山 : すぎてる、というのは経営者目線がちょっと入ってますね(笑)。
鳥塚 : 全部を走らせるのは大変だとか、メンテナンスも大変。たぶん共通の部品もないだろうし。
杉山 : 手を出しすぎちゃったのかなっていうことなんでしょうか。
鳥塚 : 景気がいい時代もあったんですよ。だから、いつかSL列車も冷房化しなきゃいけないと思って「SLやまぐち号」の客車を買っているんです。それでコロナになっちゃったとか、いろんな不運もあったと思うんです。でも、過去のこと言ってもしょうがないんですね。これからどうしていくかってことをやっていかなきゃいけないんで。
杉山 : 南海6000系がまだ搬入されたままになっていて気になってます。
鳥塚 : いま、試運転している段階ですね。営業運転ではなくて、きちんと動作するかの確認だと聞いています。
杉山 : 走らせて課題を見つけて、ひとつずつ解決していくと。
鳥塚 : そうです。
C56形135号機、C11形217号機はどうなる?
杉山 : C56の135号機はどうなっていますか。
鳥塚 : クラウドファンディングで修復資金をいただいた機関車ですね。ボイラーを外して、東海汽缶のボイラー工場に入ってます。足回りのほうで動輪関係がかなり傷んでいて、修復にはさらに1億かかりそうだと聞いています。でも、もう1回クラファンってわけにいかないじゃないですか。1億を捻出できるだけのビジネスモデル、事業目論見がないといけない。1億かけて、この機関車はどのくらい稼げるんですという事業計画ができれば、出資を募ることもできますし、融資してもらうこともできると思います。その組立ては私の仕事だと思っています。
杉山 : たしか、トキ鉄の455系・413系「観光急行」は、約3,500万円で購入して、年間4,500万円の収入を得ているそうですね。1年で元を取った。
鳥塚 : あんなのすぐに儲けちゃったから。ああいう感じの事業計画を作って1億手に入れば直せます。SLを4両体制にしたい。いま2両なんですよ。で、C56を直して3両で、もう1両直して4両体制にしたいっていうのが本音です。その中の1両がC56なんです。ただひとつのテンダー(炭水車付き)機関車だしね。いいじゃないですか。
杉山 : 同感です。あれは走ってほしい。トーマスでいうと、形式は違いますけど「ヒロ」の形ですしね。
鳥塚 : 千頭にいます。テンダーなんですけど動かないんです。もともと静態保存機だったので。
杉山 : C11の217号機はどうなりますか。当時の報道では部品取り用みたいで、送り出した高岡市民は復活を期待しているようなので、ちょっと気の毒だなと思っていました。
鳥塚 : 富山県高岡市の公園にあったやつですね。部品取りにするのかどうするのかはちょっとわからないですけど、とりあえず、おい、持ってきたぞっていう。この会社はそういう感じの会社ですから。というより、やっぱり古いものっていうのはそのときに決断しとかないと、後でなくなっちゃうじゃないですか。
杉山 : 確かにそうですね。ほっとけば朽ちてしまう。
鳥塚 : そのときに決断して、とりあえず資金があれば持ってこようという形で持ってきて。14系客車(旧・急行「はまなす」)も12系客車(旧「SLやまぐち号」)も、いまだに何もしてないっていう状態なんですけども、判断力としては間違ってないと私は思います。あとは、どうやって金を稼いでいくかってことをやんないといけないなと思います。
杉山 : やっぱり全線開通が先で、それからビジネスモデルを作るっていう形ですね。
鳥塚 : そのためには社内のリソースを、どういう人がいて、何ができて、どこまでできるかっていうことも調べないといけないし、養成するためにはいろんなことが必要ですからね。ひとつひとつやっていく必要はあると思います。
「鳥塚オリジナル企画」はある?
杉山 : 鳥塚さんはいすみ鉄道でムーミン列車を走らせていました。大井川鐵道には「きかんしゃトーマスと仲間たち」という強力なキャラクターがあります。鳥塚さんもオリジナルキャラクターを採用しようなんて思いませんか。
鳥塚 : いや、トーマスの世界観を大事にしたいと思うんです。ムーミンのときもムーミンの世界観を大事にしました。両者をバッティングさせてもしょうがない。キャラクターといえば、静岡県って女子のイメージキャラクターが盛んなので、そういうのと一緒にやるのはいいと思うんですけど、他のコンテンツキャラクターを持ってくるっていうつもりはいまのとこまったくありません。
杉山 : 女の子のキャラクターというと、大井川鐵道はアニメ『ゆるキャン△』とコラボしていますね。ご当地キャラクターに目を向けると、島田市商工会の「おしまちゃん」は着物を着て、帯が鉄橋とSLなんですよね。浜松市は「出世法師直虎ちゃん」、袋井市の「フッピー」、富士宮市の「さくやちゃん」、……なるほど楽しそう。
鳥塚 : トーマスの世界観をもっともっと大事にして、もっともっとトーマス、いまは汽車とバスとトロッコが走ってますけど、たとえばヘリコプターのハロルドも一緒に飛んだら面白いなとか、 なんかそういうことも含めていろいろやってみたいなと思っています。
杉山 : 鳥塚さんがトップハム・ハット卿に扮するとか!
鳥塚 : よく言われるんですけど(笑)、杉山さんがやればいいじゃない。っていうか、そういうことはやっちゃいけないんですよ(笑)。