航空業界からいすみ鉄道の公募社長に転身。次にえちごトキめき鉄道で手腕を発揮した鳥塚亮氏が、大井川鐵道の社長に就任した。蒸気機関車の営業運転や「きかんしゃトーマス号」で人気の大井川鐵道だが、不通区間の復旧問題が未解決で、連続赤字決算など課題も多い。独特の鉄道愛で解決できるか。社長就任の意気込みを聞いた。

  • 大井川鐵道の社長に就任した鳥塚亮氏

大井川鐵道の社長に就任した経緯

杉山 : 鳥塚さんはえちごトキめき鉄道社長を退任しつつ、相談役として残りました。上越市から依頼されて、おもに直江津のD51レールパークを担当される。鳥塚さんはネットで発信力も高く、オンラインサロンも運営されて、講演やアドバイスなどで各地を飛び回ってます。そろそろ年金だって貰えちゃう。

だから私は、「トキ鉄の鳥塚さん」から独立して、これからは悠々自適というか、「みんなの鳥塚さん」になってくださるのかなと思っていました。それが大井川鐵道の社長就任とは驚きました。でも「鳥塚さんなら」と納得もしまして。

鳥塚 : 2月の終わりくらいに新潟県へトキ鉄を退任したいとお伝えしました。大井川鐵道からお声掛けを頂いた時期は3月頃だったと思います。

杉山 : 退任の理由は、向こう10年近くの会社の存続のめどが立ち、役目が終わったとのことでした。在任中はコロナ禍で「えちごトキめきリゾート雪月花」の観光客激減のときに、地元の方向けの安価なツアーを設定して、結果的に沿線の方々がトキ鉄への理解を深められました。新たにJR西日本から455系電車と413系電車を購入して観光急行を導入しました。ブログを拝見すると、表には出ないところで資金手当ての問題や、大規模修繕の問題も解決されたとのこと。そうした手腕を買われたのでしょうね。

大井川鐵道からのお誘いは、前社長の鈴木肇氏からですか。オーナーのエクリプス日高からですか。

鳥塚 : エクリプス日高からです。「お手伝いいただけませんか」という感じでした。

まず不通区間を修復する

杉山 : ご存じかと思いますが、2022年9月の台風15号で被災し、現在も川根温泉笹間渡~千頭間が不通になっています。いままでも何度か土砂流入して、片づけて復旧を繰り返していました。そして今回は2年経っても復旧しない。その前から、観光に注力して普通列車を減便するなど、地域との関係も大変な状態ですよね。

鳥塚 : 他にも、連結器が外れたとかね。

杉山 : 2023年11月にEL牽引の客車列車の連結器が走行中に外れた件ですね。非常ブレーキが作動し、けが人はなかった。むしろ珍しい現象を楽しんだようなお客様もいらした。でも事故は事故です。運輸安全委員会より重大インシデントに認定されてしまいました。

鳥塚 : その他にも、ときどき大井川鐵道に出向いて、鈴木社長(当時)や現場スタッフといろいろとやり取りしていて、どういう状況か把握していました。

杉山 : 赤字だし、不通区間もある。しかも、大井川鐵道は民間企業です。いままで鳥塚さんが携わってきたいすみ鉄道やトキ鉄は第三セクターでした。そこでは経営方針として、営業努力をした結果、赤字であったとしても、地域に貢献していれば鉄道の存在意義はあるんだとお考えでしたよね。でも今回は民間会社で、株主からは黒字化を求められていると思います。黒字化に向けて、まず何を着手しようとお考えでしょうか。

鳥塚 : 全通ですね。線路は半分しか通ってない。半分しか通ってないっていうことは、単純に考えて売上も半分です。だから、まず線路を全部直して、きちんとした100パーセントの状態にする。要は8階建ての百貨店だとすれば、1階から4階まで営業しているけれど、上が閉まってるという話なんです。それじゃダメでしょっていうことですね。

やっぱり、きちんと直すってことは大前提だと思ってます。きちっと直していくことによって、別な使い方というか、いろんなことができるんじゃないかなと思っています。

杉山 : 線路が半分しかない状態で赤字だの黒字だの言ってもしょうがない。まずは全線開通だと。

鳥塚 : コロナで痛めつけられて、(アフターコロナに向けて)いろんなことをやろうと思った矢先に台風災害で流されてしまった。まずはきちんとしたフィールドに戻すことが大前提じゃないですか。きちんとしたフィールドに戻して、 その中でどうやって黒字にしていこうかとか、新しいことをやろうかと議論しないと話にならないじゃないですか。

ただ、復旧は金の問題なので、どうやって直すかっていうのはね、ちょっと色々と大人の事情が非常にあるので難しい。(復旧は)一番の課題ではありますけどね。

杉山 : 自治体ないしは国に対して支援を求めていくっていうことになっていくかと思うんですけれど。2023年3月に静岡県庁で「大井川鐵道本線沿線における公共交通のあり方検討会」が設置されて、今年3月までに3回開催されました。

鳥塚 : どういう支援の枠組みがあるか協議していただいています。

杉山 : 沿線自治体の島田市、川根本町とも、全線開通を望んでいるんですよね。

鳥塚 : そうです! もちろんです! 川根本町はダメージというか、ボディーブローのようにじわりじわりと効いてきているわけですよ。鉄道が、SLが走ってこないっていうことに対するマイナスというのを、わかってはいらっしゃってると思うんですけど、じゃあどうやって金を出すかっていう話ですよね。20億以上かかりますから。無理ですよね。

杉山 : 「ありかた検討会」では、被災箇所の復旧だけなら4.8億円、今後の安全運行上必要な、経年劣化したトンネルや軌道の整備に17.3億円、再度の被災可能性を軽減し、安全運行を継続する上で必要な施設整備に5.4億円かかるとしています。

鳥塚 : 自治体が金を出して直すんだったら、運行継続してくれますかっていう話になります。もちろんやります。でも、いつまた同じような災害が起きるかわかんないって部分は、不安材料としては残るんです。でも、それを言い出したら話が進まないので。

杉山 : 毎回、崩れる、直す、崩れる、直すだと、もうこれはきりがないですよね。賽の河原みたいになっちゃってます。

鳥塚 : そうです。だから、じゃあどうするんだって話をするべきなのか、それとも、その部分は置いといて、とりあえず直して、一生懸命やっていく中で、また災害が起きたらどうするか、ちゃんと整備しておこうねっていう議論に持っていくほうが、私は現実的じゃないかな、と思っています。

杉山 : まず直す。それから枠組みを考えると。

鳥塚 : そうそう。整備っていうのは、いままでの大井川鐵道に対する支援、枠組みというか、これからも頑張ってねっていうことになると思うんですけど。それ以上の、いままで以外の使い方ですね。大井川鐵道ってこんなに地域に役立ってんですよっていうようなことを、これから見せていかなきゃいけないことなんです。

だから、まず直していただいた上で、現状の価値で皆さんはお考えでしょうけど、じつは大井川鐵道はこれだけの価値があって、その価値を生かすことを我々はやってるんですよ。それを今度、直った段階で示していかなきゃいけない。

杉山 : その「直す」なんですけど、その大井川鐵道の土地ではないところが結構ありますね。

鳥塚 : 線路脇の法面(のりめん : 造成された斜面)とかですね。

杉山 : 線路際の法面をコンクリートで固めるためには、地主さんの了承が必要です。ところが、相続人不明で所有者がわからない土地があるそうですね。これは全国的に問題になっていて、大井川鐵道の復旧もこれを解決しなくちゃいけないと思うんです。行政の仕事ではありますけれども。

鳥塚 : そこの部分はお願いするしかないですよね。行政さんに汗かいてもらって、行政執行じゃないけど、そういう制度もできてきてるじゃないですか。

杉山 : 収用裁決手続の不明裁決制度ですね。補償金を供託して収用を進めるという。ただしそれは土地を買い取るという前提なので、所有権そのままで加工の許可がほしいとなると、もう連絡先がない。

鳥塚 : 我々の中で完結することじゃないので、なかなか難しい部分があるじゃないですか。あと、もうひとつ問題があるのは、昨今、皆さんお金の話しかしませんけど、実際には施工力がどうかってことがあります。

杉山 : 技術的な問題でしょうか

鳥塚 : そうです。できるかできないかも含めて、どうやるんだ、誰がやるんだ、どんだけかかるんだという。公共工事の入札不調なんかも起きていて、いまやってくれる人がいないってのは非常に大きな問題なんです。引き受け手がいない。じゃあその復旧工事は誰がやるんですかと。

杉山 : 細かいことをひとつずつ解決していかなくちゃいけなくて、それをやってると本当に長期間になるから、とりあえずは復旧させなきゃって話ですよね。やっぱり。

鳥塚 : そういうことです。とりあえず復旧させないとどうにもならんていうことですね。

杉山 : 不通区間を諦めることは絶対ないと。

鳥塚 : 私はそういうつもりです。ダメにするつもりで来てないんで。ただ、金がつかなければ、正直申し上げて、東武のSL大樹だって片道20何分じゃないですか。だから、いまの区間だけでも、できないことはないなと思ってます。

杉山 : SLの魅力的にはいまのままでもなんとかライバルには勝てると。

鳥塚 : うん。ていうか、いまのまんまでもいいから、直さないんだったら直さないで。そこはいずれ決着をつけた方がいいなと思ってます。