杉咲花の手技に監修の先生たちも引く
――そして主演の杉咲さんからは直接「やるよね?」とお電話がかかってきたとのことですが、そのお電話がかかってきたときには「『アンメット』の話かな」とピンと来たのでしょうか。
すでに米田プロデューサーからオファー自体はいただいていたので、ぼんやり「あの話かな」と勘付き始めて、「やるよね」と言われました(笑)。
――若葉さんと何と答えたんですか。
まだ米田さんにお会いする前だったので「プロデューサーとも話していないから」と言ったのですが、杉咲さんから『アンメット』に対する熱い思いをぶつけられて、米田さんのとき同様、「これはノリで『はい』と言えないな」と感じました。
――今作では脳外科医・三瓶役として手術シーンにも挑まれます。いつ頃から練習されていたのか教えてください。
昨年の11月、12月頃です。この先、さらに難易度が上がっていくので長い旅路ですね。
――会見では、監修の先生が驚くほど、杉咲さんの手技が上手だったとお話しされていましたが。
まさに努力の賜物で、素晴らしいです。練習に取り組む杉咲さんの姿勢を見ると、手は抜けないなと思わされます。僕は器用貧乏なので、ある一定までは割とすぐできるようになるのですが、そこから横着しちゃうからダメなんですよね。杉咲さんは目指す場所が本当に高いんです。とにかく作品を良くするために、「これぐらいできれば上等だよね」というところのはるか上を行こうとするので、「女優さんがここまでできるようになるなんて」というレベルの話じゃないので、監修の先生たちも驚きを通り越して引いています(笑)。
――そんな杉咲さんの主演作に出演されるのは4本目。改めて杉咲さんの“すごさ”を教えてください。
女優としてもちろんすごいのですが、極端な話をすれば、芝居がどうというよりも、杉咲さんの素晴らしい人間性に皆がついてきているんだと思います。優しくて思いやりがあるし、誰にも何も言わずに必死に努力したことが芝居ににじみ出ているような。杉咲さんを見ると皆、背筋が伸びる。そんな人です。
もしも記憶を失ったら役者をやめるかも
――杉咲さん演じるミヤビは、毎日記憶を失ってしまうという役どころです。ミヤビはそれでも医者でいようとしますが、もし同じことが起きたとき、若葉さんも俳優でいようとすると思いますか。
僕、そもそも俳優は好きじゃないので。
――えっ!?
僕にとって、俳優は食いぶち。食いぶちを死守するために全身全霊でやっているという感覚です。小さい頃からやっていて、食える可能性が一番高い職業だなと判断して役者をやっています。個人的な意見ですが、お金をもらっているから、作品において絶対的な責任があると思っているので。お金をもらっていなくてただ好きなだけだったら、「こうやって作りたいです」とここまで声を上げないんじゃないかな。だからミヤビと同じような状況になったとき、もしかしたら役者をやめるかもしれません。でも、生きること、人と繋がることに関しては、必死にしがみつくと思います。
――先ほど“器用貧乏”と仰っていたので、どんな職業でもできるかもしれませんよね。
社会はそんな甘くないと思いますけど(笑)。
――では最後に、ドラマ『アンメット』の見どころを教えてください。
「こんなこと民放ドラマでやらないよ」と皆に言われるくらい、本当に面倒くさい撮り方をしています。カメラ一台で撮ったり、役者のいい芝居が出てくるまで30分カメラをRECし続けたり、ワンカットごとに照明の位置をすべて変えて、とにかくいいものを撮ろうとしています。本物の手術を執刀医の隣で見せていただいて、これまでの医療ドラマや医療映画がいかにイメージだけで作っているかということも明確になったので、本当の空気感により近い、リアリティのある手術シーンもお見せできると思います。見たことのないドラマを見たい方に、是非見ていただきたいです。
1989年6月10日生まれ、東京都出身。2016年、第8回TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で、数多くの作品に出演。若きバイプレーヤーとして評価を高める。昨今の出演作に、NHK連続テレビ小説『おちょやん』、映画『あの頃。』、『街の上で』、『くれなずめ』、『前科者』、『窓辺にて』、『ちひろさん』、『愛にイナズマ』、『市子』、『ペナルティループ』など。公開待機作に『ぼくのお日さま』(2024年秋公開予定)がある。