連ドラに引き続き、安田顕、木村文乃、高杉真宙、高梨臨、菅野莉央、生田絵梨花、中尾明慶、正名僕蔵、甲本雅裕らレギュラーメンバーも再集結しており、中でも“母”となった涌井桃子を演じる生田の芝居にも注目。良き母になりたいが、育児の大変さとの葛藤に苦しむ姿は、彼女がアイドルながら“演技派”と称される理由がよく見える。

新加入の研修医組である小林と武田も、それぞれのプライドと自身の至らなさの板挟みからの成長が自然に描かれており、今後どう成長していくかを見てみたくなるキャラクター造形にも注目だ。

物語に関しても、医者は魔法使いや奇跡を起こす存在としてではなく、一労働者として、職場モノとして見ることができる。ただ医師という特性上、生命というテーマは切っても切り離せない。人はいつか生命を失ってしまう。だからこそ儚いものであり、その生命を諦めなければならないし、それを自分が決断しなければならないつらさも描かれている。

だがその“つらさ”だけではなく、例えば武四郎の脳裏には今も亡くなった母がたびたび登場し、人が亡くなったらそれで“終わる”わけではなく、関わってきた人の心にしっかりと“生きている”ことも示唆されており、そこに“救い”がある。そして“死”があるからこそ、今、我々が生きていることそのものが“奇跡”であり、また自分を生んでくれた母という大切な存在があり、育ててくれた人たちがいるありがたさも浮き彫りにされている。

  • (左から)菅野莉央、生田絵梨花、吉沢亮 (C)フジテレビ

心の奥底に眠る伝統的な“日本”を呼び覚ます

今回は冬の北海道の雪景色も印象的に取り入れられている。その景色の美しさも“生”を感じさせ、物語の舞台からこの作品を支えている。

かつてアクション俳優から演技派に転向しようと悩む松田優作は、脚本家・向田邦子から「私はお茶の間の出来事にしか興味がない」と諭されたと言う。目の前で起こる細事……季節の移り変わりや季節ごとの景色、人のちょっとした言葉や仕草――そこから何かを感じ取るのが日本人の機微であり、熟成された感性。そして、そうした日常をしっかり描くのが日本のドラマの特徴ともいえる。

ゆえに『PICU』という作品は、日本文化という“地”に足がついている。リアルに物語が進行するからこそ、見る人も「泣かされる」ではなく「泣いてしまう」。海外では創り得なかっただろう本作は、我々の心の奥底に眠っている伝統的な“日本”を呼び覚ましてくれるだろう。

  • (C)フジテレビ