「どうか、生きて」――駆け出しの小児科医が仲間とともに「どんな子どもでも受け入れられるPICU(=小児集中治療室)」で奔走する姿を描いたメディカル・ヒューマンドラマのその後を描いた『PICU 小児集中治療室 スペシャル 2024』(フジテレビ系)が、きょう13日(21:00~)に放送される。

一度は医師としての自信をなくし、退職願まで出した主人公のしこちゃん先生こと志子田武四郎(しこた たけしろう/吉沢亮)も、ようやく一人前に。連ドラ放送時から「涙腺が崩壊する」「前を向く大切さを教えてくれる」と好評だったが、今作もその上がりきったハードルを感じさせない、時間を忘れて見られるドラマとなっている。

  • 『PICU 小児集中治療室 スペシャル 2024』主演の吉沢亮 (C)フジテレビ

    『PICU 小児集中治療室 スペシャル 2024』主演の吉沢亮 (C)フジテレビ

公園に捨てられた乳児に重症を負った姉弟も

「生きるとは」「命とは」「家族とは」という普遍的な問いに真っ正面から向き合った感動作が、約1年半ぶりにオール新作のスペシャルドラマとして帰ってくる。連ドラでは、「大規模なPICUの運営は極めて困難」とされる広大な北海道で、武四郎が、丘珠病院PICU科長・植野元(安田顕)ら先輩医師とともに、どんな子どもでも受け入れられるPICUを作るため、そして、ドクタージェットの運用を実現するために奔走する姿が描かれた。

連ドラの武四郎は、発展途上にある若き医師の未熟さ、純粋さ、けなげさが繊細に描かれた。今回のスペシャルドラマでは、武四郎がPICUに配属されて1年後の丘珠病院を舞台に描かれる。

後期臨床研修でやってきた2人の研修医・瀬戸廉(小林虎之介)、七尾乃亜(武田玲奈)の指導をみることになった武四郎。先輩らしい姿を見せたいところだが、2人は頼りない武四郎のことを小バカにし、瀬戸からは「無理に良いこと言おうとかしなくていいんで。僕は植野先生から学びたいので」と、そっけない態度をとられる。

ある日、生後間もない女の子が搬送されてくる。公園に捨てられていたところを通行人によって発見されたのだが、へその緒を雑に切られたことが原因で皮膚が傷つき蜂窩織炎(ほうかしきえん)を発症していた。患部は赤黒く腫れ、高熱も続いていたため、受け入れ後すぐにオペを決行。術後管理を武四郎、綿貫りさ(木村文乃)が担当することになるが、予断を許さない状況が続く。

そんな矢先、利尻島で起きた事故で重傷を負った姉弟が搬送される。10歳の姉、8歳の弟ともに重症で緊急オペが必要だが、オペ室は1室しか空いていない。そこで武四郎はPICUへの搬送を指示するが……。

  • (左から)正名僕蔵、安田顕、武田玲奈、小林虎之介、吉沢亮、木村文乃

  • 左から)吉沢亮、安田顕、甲本雅裕、木村文乃

  • (C)フジテレビ

連ドラ後の武四郎をしっかり魅せる吉沢亮の確かな演技力

スペシャルを見た感想の第一声は「あの『PICU』が“ちゃんと”帰ってきた」だった。同作の魅力は、わざとらしい「泣かせ」の演出が避けられており、「泣く」ことが結果論であることだ。制作側から「ここで泣いてほしい」といった強制は一切、ない。それはなぜか。連ドラとスペシャルにも共通する点や、今回のエピソードをかいつまみながら解説していきたい。

まず『PICU』が重きを置いてあるだろう点は、「日常」だと感じる。スペシャルでも、ただ武四郎が朝の支度をするだけのシーンで、起きた直後の表情や仕草、レンジにインスタントのご飯を放り込み、冷蔵庫の中を覗き込み、そして亡くなった母の仏壇にご飯を。そしてそこから生卵をかき混ぜ、卵かけご飯を食べるという一連をしっかり描いている。

これが後に生きてくる。医療現場での緊迫した空気。目の前に浮かぶ「死」。そういった「非日常」が、「日常」を描くからこそギャップとして際立ち、さらにはそこが(「死」すらも)「日常」と地続きであることを実感させられるのだ。

同時にこの日常は、見ている人をほっこりもさせてくれる。幼なじみ4人が久しぶりに集まり、食事をするシーンでも武四郎がからあげを揚げ、ギョウザを焼き、それぞれが連ドラ時と変わらず、にこやかな表情を浮かべる。そこで武四郎がギョウザにニンニクを入れてないことを語り、「これは母の愛。子どもの頃にニンニクを食べて鼻血を出したことがあるから」との説明がさりげなく入るなど、その「日常」に登場人物たちの歴史がぎっしりと詰まっている。

  • 生田絵梨花、菅野莉央、吉沢亮、高杉真宙 (C)フジテレビ

見事なのは、これに説得力を持たせる吉沢亮だ。朝の寝起きや幼なじみとのやり取りなどでは、連ドラ開始時と変わらぬ、「武四郎」というパーソナルをしっかり演じている。だが連ドラで武四郎は成長した。それは医師としてのシーンで違和感なく演じられており、患者の子どもやその両親を心配させないよう、動じず、粛々と治療を施したり励ましたりしている。

この演じ分けが見事であるほか、その“動じなさ”に加えて、バスガイドとして女手一つで育ててくれた母(大竹しのぶ)の死を想っているだろう表情が見られるシーンも。感動ポイントながら、涙をこらえる演技を最小限に絞り、その過去を“匂わせる”に留める演技センス、演技力は目を見張るものがある。