『555』に自分なりの「責任」が生まれた
――ここまでの流れがあってこそ『555』オリジナル・キャストが結集しての新作映画『パラダイス・リゲインド』につながりますし、幾度となく再登場の声がかかる仮面ライダーファイズ/乾巧の根強い人気ぶりがうかがえます。そんな『パラダイス・リゲインド』ですが、映画館へ足を運んだ方たちの感想を読んでいますと「555を観たなという満足度が高い」とか「あのころの魂を残したまま成長を重ねたキャラクターたちと再会できて嬉しい」といった、高評価の声が多い印象です。こういった評判を聞いて、半田さんはどんなお気持ちですか?
いやもう、ありがたい限りですね。正直、最初に到来したのは「安堵感」でした。好評だ、バンザイ! というのは、その後から来る感情です。人気のあった作品の「後日談エピソード」は、必ずしも多くのファンの方たちから無条件に祝福されるとは限りませんからね。新作を作ることが是か非か、という意見のぶつかりあいが当然出てきます。僕たちが集まって、せっかく新作を作ることになったのだから、やる以上は多くの人々に歓迎されるものをお届けしたかったんです。今回、あちこちでお話をしていますが、台本をもらったとき、一ヵ所だけ僕と芳賀さんとでひっかかる部分があり、これをそのまま演じたら「歓迎」されるかどうかわからんぞと思ったんです。事前にプロデューサーや田﨑監督を交えて話し合ったことにより、良い結果が出たんじゃないかと勝手に考えています。
――半田さんや芳賀さんが作品内容にしっかりと向き合ったことも、多くのファンからの支持を得られた要因なのではないでしょうか。
僕自身、驚いているんです。こんなに『555』に対して真剣に向き合っていたのかと(笑)。テレビシリーズをやっていた当時は、右も左もわからない新人でしたから、ただ与えられたことを一生懸命やるしかなかった。でも20年が過ぎた今では「これは、555という作品で表現する必要はないのでは」と、意見ができるようになりました。生意気になったのではなく、もはや『555』という作品に、自分なりの「責任」が生まれたゆえの行動ですね。僕個人としては、送り手でありながら受け手……昔から『555』を応援してくれているファンのみなさんの心に寄り添っているつもりです。『パラダイス・リゲインド』で新しいファン層を開拓しようという狙いは、僕の中にはありません。ただ、今回の作品がきっかけになって『555』に興味を持ってくださる人が生まれたらいいなと思うくらいです。やはり、この20年間ずっと『555』を好きで、応援してくれたファンのみなさんへの「恩返し」というか、そんな方たちに喜んでもらえる作品にしたかった。それだけに、みなさんが『555』に求めているものを、可能な限り「守りたい」と思っていました。
――『パラダイス・リゲインド』の企画が固まる以前、半田さんご自身は『555』20周年記念の新作を作るにあたって、何か構想を練られていたりしましたか?
そこまでは考えていなかったです。でも、新作を作るのであれば、絶対「井上敏樹」先生に脚本を書いてほしいなという思いは強かったです。井上先生の描く巧には、間違いがないですから。実際『パラダイス・リゲインド』の巧は、普段は弱っていて、必要なときだけギリギリな感じで戦っている。ある意味、僕の理想とする巧像で、嬉しかったですね。もしも、今の巧がヒーローに目覚めちゃって、なんかやる気まんまんで動いていたら困るじゃないですか(笑)。決して明るいお兄ちゃんにはならず、相変わらず何かを「我慢」しながら、憂いを帯びて戦うのが巧なんです。演じながら、やっぱり巧はこうだよなあ、なんて思っていましたよ。
――死期を予感した巧が真理のもとから離れていく際「マヨネーズを買ってくる」と言い残しますが、そのマヨネーズが後に巧と真理との「再会」シーンで印象的なアイテムとなります。そういった「食」にまつわる要素も、井上さんならではの味わいと言えますね。
そう。そのマヨネーズがラストシーンでの「お好み焼き」で、初めて使われるわけです。こういうところ、ほんとうに井上脚本の凄さだと思います。井上先生は常々、形として残らないものにお金や手間をかけることが、いちばんの贅沢なんだと話しています。だからこそ、作品の中に「食」を積極的に入れ込んでいるんでしょうね。
――『パラダイス・リゲインド』のラストシーンは、それまでの殺伐とした空気を吹き飛ばすかのように、食卓を囲む巧や真理、条太郎(演:浅川大治)たちののんびりした会話で締めくくられました。TTFC(東映特撮ファンクラブ)の配信ドラマ『ファイズ殺人事件』でも、不可解な人間消失事件こそ起こりますが、『パラダイス・リゲインド』メインキャスト陣が全員そろってコミカルなやりとりをするのが見どころとなっています。個性的なキャラクター同士による、ほのぼのとしたやりとりもまた『555』の楽しさだと再認識させてくれる瞬間でした。ファンの方々からは「また新作を作ってほしい」という声も多くありますね。
芳賀さんも『555』のみんなが集まるのが楽しいから、ホームドラマのような「戦わない555」ならまたやりたい、なんてよく話しています(笑)。でも『555』は暗くてナンボですから、ただ明るく楽しいだけではいくらキャストが楽しくても、観てくださる方たちに申し訳ありませんね。ファンのみなさんが期待をしてくださるのはありがたいですし、出来るならば僕たちもまたやりたい。
しかしここからまた10年後というのは、ちょっと間が空きすぎのような気がします(笑)。今後『555』のメンバーで新作を作るのなら、設定の面からごっそり変える必要があるんじゃないかな。ことさらアクションに力を入れず、ヒューマンドラマ路線で攻めるとか、『555』でありながら「脱・仮面ライダー」を目指すような作品なら、やってみたいなと思います。もともと『555』はヒーローらしくないヒーロー像を目指していました。変身ベルトを奪い合い、誰が変身するのかわからないという展開がありましたしね。だから新しい『555』をやるのなら、原点のさらに原点までさかのぼり、今までにないような「仮面ライダー像」を探ることができたらいいですね。もう賛否両論。良いか悪いか、評価が真っ二つに分かれるようなものに心惹かれます。