現在放送中のカンテレ・フジテレビ系ドラマ『春になったら』(毎週月曜22:00~)は、“3カ月後に結婚する娘”椎名瞳(奈緒)と“3カ月後にこの世を去る父”椎名雅彦(木梨憲武)が、「結婚までにやりたいことリスト」と「死ぬまでにやりたいことリスト」を実現していく3カ月間を描くハートフル・ホームドラマ。きょう18日放送の第10話で、瞳は初めてメインを任されたお産に奮闘し、入院中の雅彦は葬式に呼んでほしい人のリストを作る。そして二人は、残された時間を自宅で過ごすことに――。

残すところあと2話、最終回を目前に、今作を手掛けるカンテレの岡光寛子プロデューサーにインタビュー。この後編では、物語誕生のきっかけ、「ここだけはブレないようにした」という作品の軸について話を聞いた。

  • 左から木梨憲武、奈緒

    『春になったら』W主演を務める木梨憲武(左)、奈緒=カンテレ提供

余命宣告で聞いた「一緒に桜を見られたら」という言葉

――残すところあと2話で最終回を迎える『春になったら』ですが、物語誕生のきっかけを教えてください。

ホリプロの白石裕菜プロデューサーと一緒にお仕事をするのは今作が4作目なのですが、「オリジナルドラマを考えましょう!」ではなく、身のまわりで起こった出来事や、今興味のあることを語る世間話から、企画のタネを見つけることが多いんです。今回は、私の祖母が3カ月の余命宣告を受けたとき、お医者さんに「一緒に桜を見られたらいいですね」と告げられた経験から話が膨らんでいきました。

――岡光さんがお祖母様の余命宣告を経験したことがきっかけに。

余命宣告を受けた瞬間は衝撃が走りましたが、冷静になると、誰もが迎える終末期について考えることは、自分らしい生き方を選ぶことにつながるんじゃないかと思って。シリアスなテーマですが、明るさやポップさを加えながら、大切な人と見てもらえるドラマを作れないだろうかと、構想を練り始めました。

――「桜が見られたら」という表現が現実に存在するんですね。

「そうか、具体的に何月何日までとは言えないよね」と母と納得しながらもいろいろな思いが渦巻いたのですが、印象的な言葉だったので、そのまま第1話の台詞にも使わせていただきました。

人生の節目の“喜びと悲しみ”分かち合う大切さ

――“3カ月後に結婚する娘と3カ月後にこの世を去る父”という物語の軸はどのように生まれたのでしょうか。

入学式、卒業式、結婚式、お葬式と、人生にはいろいろな“節目”がありますが、新しい門出を誰とどう祝福し合いたいのか、何かの終わりを誰とどう偲びながら過ごしたいのか、そこにこそ、その人が人生を通して大切にしたいものが鮮明に映し出されると思うんです。コロナ禍では結婚式が中止になったり、お葬式には身内しか参列できなかったりと、喜びや悲しみを分け合える豊かな時間を一度失った今だからこそ、ある親子の、はじまりとおわりの節目を通して私たちが大切な誰かと分かち合いたい感情を、深く丁寧に描けたら、と。

――今作を制作する中で「ここだけはブレないようにしたい」と一番大事にしたところは。

第1話で、小林聡美さん演じる助産院の杉村院長が「出産って特別なことのように思えるけど、日常の一部なんですよ」と話す場面があったのですが、あれは取材に行った時に助産師さんから実際に聞いた話なんです。当たり前に生きている日常や家族にも終わりはありますし、人が亡くなる同じ日に新しい命が誕生しています。生まれることも死ぬことも対極にあるように見えて、1本の線でつながっているということを改めて感じ、このドラマでは“日常感”を大事に描きました。家族の始まりと終わりの対比を軸に、人生のままならなさを描きながら、温かさと軽さの中に人々の機微や日常の尊さを見出すような、そんなドラマにしたいと。ホームドラマとして、奇抜な設定にせず、激しい事件を起こさず、過度な演出や音楽をつけず、「ある親子の、ある3カ月の日常を切り取った、地に足のついた作品」でありたいという思いはブレていません。

――インタビュー前編でもお伝えしましたが、今作を見ていると、瞳と雅彦が、私たちが生きる世界のどこかで、実際に存在する親子のように感じます。

まさにそこが目指していたところなんです。私たちが生きる世界と地続きの、しかも身近な場所で生きていると感じてもらえるような親子になれば、という思いを、奈緒さんと木梨さんが見事に体現してくれました。