AI時代ならではの局面判断のゆがみも計算にいれていた

――AIが示す最有力候補を先手が指し続けるなら持将棋になる、というのが本局のカラクリだったということでしょうか。それともう一つ、AIの評価値という観点からは看過できない重要点があったように思われます。日本将棋連盟の中継AIは60対40で先手有利と評価するのです。一見して双方が最善を尽くしても持将棋成立が濃厚と思われる場面で、この落差はどうして生じるのか。実はプロ棋戦で採用されているのが24点法(双方が入玉を果たしたとき、駒数がともに24点以上あれば合意により引き分け。ない場合は点数負け)であるのに対し、AIに組み込まれているのは27点法(先手ならば28点、後手ならば27点に達していれば勝ち)だったんですね。つまり27点法ならば負けになるマイナスの評価値が示されても、24点法ならば引き分けに持ち込めるので、見かけ上の不利な点数はある程度は無視できる。

そういう特殊性が相入玉模様になった本局には付随していたのでした。説明用の前置きが長くなってしまいました。持将棋を判定する際にAIが27点法を採っていることを伊藤七段は事前に認識し、研究時には先手側のプラス評価を少々割り引いて考えていた、という理解で正しいでしょうか。

「はい。AIの評価値が先手にとって高めに出ることは知っていました。表示される読み筋を見ても、持将棋になりそうな順だなとは研究段階では思っていて、多少の不安はありましたけど先手が避けるのも難しいように感じていました。藤井さんが持将棋模様の順を選ばれたのは割と意外ではあったんですが、最終的には後手玉をつかまえられるという判断が働いたのかと思います。実際どうなるのかはやってみないとわからないところも多いですし、それに先手は最悪でも負けにはなりませんから。感想戦の結論自体、断定しきれないところがまだあります」

(インタビュー部は、第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第1局「勝利への扉」より インタビュー自戦解説/伊藤匠七段 構成/住吉薫)

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  • 『将棋世界2024年4月号』より

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発行:日本将棋連盟