◆消費電力(グラフ76~84)

最後にこちらを。まずSandraのDhrystone/Whetstoneをグラフ76に、CineBench R24のMultiの1周分(CineBench R24はデフォルトでは10分の間延々とレンダリングを繰り返すので、1回分が終わったタイミングまでとした)をグラフ77に、TMPGEnc Video Mastering Works 7で4streamをx265でエンコードした場合をグラフ78、AMD Media Encoderを使った場合をグラフ79に、3DMark NightRaid Demoをグラフ80、Solar Bayをグラフ81に、そしてMetro Exodusの1.5Kをグラフ82にそれぞれ示す。それぞれの稼働中の平均消費電力をグラフ83に、グラフ83と待機時の消費電力の差をグラフ84にそれぞれまとめてみた。

  • グラフ76

  • グラフ77

  • グラフ78

  • グラフ79

  • グラフ80

  • グラフ81

  • グラフ82

  • グラフ83

  • グラフ84

まず驚いたのが、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gを利用した時の待機電力の低さである。Ryzen 7 7700Xと比べて20Wほど下がっている。筆者はRyzen 7000シリーズの待機電力の高さをX670Eチップセットの構造(B650Eチップセットのタンデム接続)にあると考えて居たのだが、Ryzen 8000Gを使うと20Wも下がるというのはちょっと考え方を改める必要がありそうだ。

さて、CPU Benchmarkに関して言えばRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの効率の高さが際立つ結果になった、として良いかと思う。まず表3にDhrystone、表4にWhetstoneの効率を示すが、Dhrystoneでは5GIPS/W超え、Whetstoneでも3GFLOPS/W超えを果たしている。絶対的な消費電力で言えばRyzen 5 5700Gもいい勝負だが、性能が違うから勝負は明白だ。Ryzen 7 7700XはもとよりCore i7-13700KFでは逆立ちしても届かない。

■表3 Dhrystone(GIPS) 消費電力差(W) 効率(GIPS/W)
5700G 364.09 83.0 4.39
7700X 594.93 131.9 4.51
8600G 433.81 85.3 5.09
8700G 552.80 98.0 5.64
13700KF 867.00 253.2 3.42
■表4 Whetstone(GIPS) 消費電力差(W) 効率(GFLOPS/W)
5700G 242.00 86.8 2.79
7700X 338.58 129.8 2.61
8600G 245.08 78.8 3.11
8700G 314.36 93.0 3.38
13700KF 527.80 226.0 2.34

表5はTMPGEnc Video Mastering Works 7でx265を利用した場合の効率、表6はAMD Media Encoderを利用した場合の効率で、これもRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gが圧倒的に高い。

■表5 エンコード速度(fps) 消費電力差(W) 効率(fps/W)
5700G 12.3 94.8 0.13
7700X 18.3 148.8 0.12
8600G 12.4 69.8 0.18
8700G 14.5 75.5 0.19
13700KF 23.7 268.9 0.09
■表6 エンコード速度(fps) 消費電力差(W) 効率(fps/W)
5700G 82.9 73.9 1.12
7700X 117.4 119.2 0.98
8600G 125.5 85.6 1.47
8700G 131.3 73.9 1.78
13700KF 117.4 166.6 0.70

表7は先にCineBench R24の所で触れた、Multi Renderingにおける効率をまとめた物である。Ryzen 7 8700はCore i7-13700KFの倍とは言わないものの、8割近く効率が良い。絶対性能を取るならCore i7-13700KFなりRyzen 7 7700Xの方が好ましいだろうが、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの良さは特筆ものと考えて良いと思う。

■表7 Score 消費電力差(W) 効率(Score/W)
5700G 802 108.6 7.38
7700X 1093 142.9 7.65
8600G 761 81.4 9.35
8700G 912 86.0 10.60
13700KF 1595 266.6 5.98

問題はGPUの方で、これもグラフから明らかな様に消費電力そのものは猛烈に低い。が、性能もそれなりでしかない。この性能をどう判断するか、がポイントになるだろう。

考察

ということで遅まきながらRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの評価をお届けした。値段は冒頭に示した大塚実氏のレポートにもあるように、Ryzen 7 8700Gが\58,000前後、Ryzen 5 8600Gが\40,000というところ。ただこの\58,000という値段は、例えばRyzen 7 7800X3Dとほぼ同等の価格(価格例:https://www.amazon.co.jp/dp/B0C2D943TC/ 2月21日時点で\54,444)であって、性能を取るか、効率と統合GPUを取るかという判断が難しい。同様にRyzen 5 8600Gも、Ryzen 5 7600X(価格例:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BF4XS27Z/ 2月21日時点で\42,222)と競合する感じだ。

筆者の個人的な見解としては、本格的にGameをやろうというには、このGPUではかなり不満を感じるだろうと思う。大塚氏は「グラフィックスカードがなくても、ある程度ゲームを遊ぶことができる」と書いたが、実際は「グラフィックスカードを追加しなくても、ある程度遊べるゲームもある」と言う方が近い。3D性能に過大な期待は禁物だ。

その一方で、そこまで派手に3Dを使うつもりもなく、コストパフォーマンスとか性能効率に重きを置く(省スペースPCとか静音PCとか)用途には、ベストなCPUと考えて良いかと思う。今回は試せなかったが、今後ソフトウェアがRyzen AIに対応してくれれば、AIベースのアプリケーションがGPUを使うよりずっと効率よく実行できる「可能性がある」。拡張性こそRyzen 7000シリーズには及ばない(主にPCIe周り)が、「そこそこの性能のPCを限られた予算で組みたい」なんて場合にはベストな選択かと思う。まずはGPUも無しでとりあえず組んで、後で欲が出てきたらCPU交換なりGPU追加なりをすればいいのだから。

ちなみにAMDからは、「OCをすると性能が結構伸びる」としてDDR5-6400のDIMM(当然OC対応)も一緒に送られてきたが、今回は評価に利用しなかった。Ryzen 8000GにOC Memoryを組み合わせたからといって、Radeon RX 6600に及ぶ程の性能が出るわけではないし、むしろバランスが崩れる可能性もあると少なくとも筆者は考える(ただ、この辺は好みや用途の問題ではあるのだが)。