Intel GPU
初代のAlchemistアーキテクチャに基づく製品としては、2022年中にArc 3とArc 7がそれぞれ発売され、なぜかArc 5だけ遅れていたものの、2023年10月にA580がリリースされ、これで一応製品は出揃った事になる。これに続く製品としては、第2世代ArcであるBattlemageが予定されている、という話は昨年のロードマップでも触れた訳で、加えて言えばこのBattlemageに使われるXe2-HPGは、MeteorLakeことCore Ultraに採用されているという話はこちらの記事で触れたとおりだ。
なので、マイクロアーキテクチャ的には既にBattlemageは完成しており、あとはDiscrete GPUに仕立て上げるだけでいい...筈なのだが、実は筆者はそもそもBattlemageが世の中に出て来るかどうかそのものを強く疑っている。理由は、Gelsinger CEOになって本業回帰の動きが明確に出て来たからだ。2023年度一杯でPSG(Programmable Solution Group:旧Altera)を切り離し、1月1日に新会社として発足させ、IPOも念頭に置いている。その前にはPluggable Network Module部門をJAVILに売却しているし、2023年1月には旧Barefoot Networkの持っていたTofino製品の開発を中止するなど、2023年のIntelは2013年~2021年(要するにCEOがBrian Krzanich氏~Bob Swan氏の時代)に無駄に買収を重ねた部門のうち、あまり戦略や利益に貢献していない部門を片端から切り離しに掛かっている。AXGも解体され、Data Center GPUはDCAIに、Discrete GPUはCCGにそれぞれ吸収されてしまったうえ、AXGを立ち上げた原動力だったRaja Koduri氏も2023年3月に退職してしまった。そもそもAXGは創立以来一度も黒字化していないどころが毎年赤字幅が増えており(Photo05)、おまけに製造は社内ではなくTSMCに製造委託している時点でIFSのビジネスにも繋がらない。一応Arrow Lake世代では社内製造に戻るようだが、Process編の所で説明したようにIntel 3も逼迫、Intel 20A/18Aも怪しい状況であり、次世代Discrete GPUを製造する余力はない。だからといってIntel 7で今さら製造したところで競争力は低いだけである。2023年第2四半期におけるマーケットシェアは、JPRによれば2%だそうで、これをAMD並みに引き上げようとすると一段の投資が必要になる。しかしIntelは現在Fabの立ち上げ(ArizonaやOregon、Ohio、更にヨーロッパ/中東でも新Fabを建設中で、これから製造設備の導入も始まる)に資金を集中している状況であり、儲けの無いDiscrete GPUビジネスを続けてゆく正当な理由が既になくなりつつある。
実際Datacenter GPUでも、2024年投入予定だったPonte Vecchioの後継となるRialto Bridge(Photo06)がキャンセルされ、2025年にCPU+GPU構成となるFalcon Shore(Photo07)が後継となることが発表されている。こうした状況で、Battlemage GPUが世の中に出てくる可能性がどれほどあるか? というと非常に微妙である。
2022年頃のロードマップでは、BattlemageベースのG10とG12というGPUが用意され、G10は今年第2四半期前半、G12は第2四半期中旬にリリースされるという話があった。G10は64 Xe-HPG Coreと256bit Memory I/F(GDDR6なのかGDDR7なのかは不明)の構成のハイエンド向け、G12はミドルレンジ向けという話であったが、筆者的には、引き続きXe-HPGの開発部隊は残るとは思うが、それは統合GPU用のTileの開発に留まり、Discrete GPUのマーケットからは2024年中に撤退する可能性もあるのではないかと見ている。
そういえば、Raja Koduriの次にAMDから引き抜いたChris Hook氏(2018年にIntelのSenior Director, Visual Technologies and Graphics Marketingに就任)も、2020年4月にIntelを退職している。色々な意味で、今IntelがDiscrete GPUビジネスを継続する理由は薄らいでおり、それこそ今年のBattlemageの扱いで継続か否かがはっきりしてくるのではないだろうか。