1月7日にスタートするNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合 毎週日曜20:00~ほか)の脚本を手掛ける大石静氏にインタビュー。主人公・紫式部をどのように捉え、どのような思いを込めて物語を作っているのか、また、主演の吉高由里子や相手役の柄本佑の魅力について話を聞いた。
『源氏物語』には紫式部の深い人生哲学が込められている
大河ドラマ第63作となる『光る君へ』は、平安時代を舞台に、のちに世界最古の女性文学といわれる『源氏物語』を生み出した紫式部の人生を描く物語。主人公・紫式部(まひろ)を吉高由里子、紫式部の生涯のソウルメイト・藤原道長を柄本佑が演じる。吉高と柄本は、2020年に放送された日本テレビ系ドラマ『知らなくていいコト』に続き2度目の共演で、同作も大石氏が脚本を手掛けた。
大石氏は、紫式部について「一言では表現できない」とした上で、「気難しい人」と捉えている。
「幼き日に母を亡くし、貧しい暮らしであったという説があることから、生きるとは不条理に苛まれていくことなんだと知ってしまった女の子。真正面に向かうのではなく、人生とは思い通りにいかないものという見方で少女期を過ごし、そういうふつふつとしたものが文学者としての萌芽であり、ただ誰かの妻になりたいだけではなく、私の使命はなんだろうと思っている人。道長のことをずっと好きで、道長も何度も『自分の妻になりなさい』と言うけれど、ほかにも女の人がいるところに行って不自由な思いはしたくないと思って行かない。自我が強い人だと思います」
そして、本作を通して伝えたいことがたくさんあるという大石氏は、「平安時代の印象を変えたいという願いがありますし、藤原道長のイメージも変えたいという思いもあります」と言い、紫式部についても「きっとこうだったんだろう」と思う人物像を描きたいと考えている。
「ユネスコが選ぶ世界の偉人10人に日本人で紫式部だけ入っているのは、『源氏物語』という権力批判も描いた奥深い作品を書いたがゆえに世界的に評価されていると思う。男と女が寝たり起きたりしている物語という印象ですが、そうではなくて、その行間に彼女が込めた深い人生哲学があるということを示したい」
見えている山場がないことを逆手に取って毎週見たくなるドラマに
平安時代中期を舞台とした大河ドラマは、平将門を描いた『風と雲と虹と』(1976年)以来48年ぶりで、同作に次いで2番目に古い時代となる。多くの大河ドラマで見せ場として描かれる戦のシーンはほとんどないが、スリリングな展開はあるようだ。
「宮廷も戦国時代のお城も会社みたいなもので、えらくなりたいと思って誰かの足を引っ張ったり、誰かを失脚させたりというのは同じようにあります。山崎豊子さんの『華麗なる一族』も、一族なのに足の引っ張り合いをして権力闘争をしていて、あれに似た感じの権力闘争は藤原家の中で行われている。見慣れた戦はないけど、人間の葛藤や引っ張り合いは同じぐらいスリリングになると思います」
あまり知られていない時代だからこそ、「先がわからない面白さがある」とも語る。
「本能寺の変で信長が死ぬというような先がわかっている話より面白いかもしれないじゃないですか。見えている山場がないというのを逆手に取り、毎週見たくなるように頑張っています」
また、成功するドラマは「キャラクター設定がうまくいっている」と言い、「その設定に命をかける」とその重要性を強調する。
「キャラ設定が崩壊したり、はっきりしてなかったりすると物語は転がっていかない。3カ月くらいの短い連ドラはいちかばちかで書き始めることがありますが、こういう長いものは、ここで何が起きて最終回はこういう感じで終わるというのを1年間ぐらい考えてから書き出します。それぞれの役の見せ場も計算して書いていくので、人数は多くともおのずとキャラは立ってくると思います」
そして、どのような人たちに見てもらいたいかという問いには、「従来の大河ドラマを必ず見る人にももちろん見ていただきたいですし、韓流ラブストーリーが好きな人も取り込みたいと思っていますが、私は面白いものを作れば誰でも、子供も大人も見ると思っています」と語った。