5位:8作連続オリジナルの日曜劇場。ついに「脱・半沢直樹」か
日本ドラマ最長67年の歴史を持つTBSの日曜劇場は2023年、『Get Ready!』『ラストマン-全盲の捜査官-』『VIVANT』『下剋上球児』を放送した。すべて原作のないオリジナルであり、昨年の『DCU』『マイファミリー』『オールドルーキー』『アトムの童』と合わせて現在8作連続となっている。
しかもそのジャンルは医療、刑事、学園とはっきり色分けされ、『VIVANT』に至ってはどんな物語なのか、くくれないほどのオリジナリティあふれる物語。これはテレビ視聴者を魅了し、飽きられないためだけでなく、世界配信を筆頭に多方面へのマネタイズを意識した戦略にほかならない。
象徴的なのは、2010年代のような時代劇を思わせる勧善懲悪のムードがほぼ消えつつあること。2013年に『半沢直樹』が大ヒットして以降、痛快感を前面に出したけれんみたっぷりの勧善懲悪が日曜劇場の代名詞だっただけに、ここにきての変化を感じさせられる。 特に下半期の『VIVANT』『下剋上球児』は善悪の概念すら度外視した物語であり、「脱・勧善懲悪」「脱・半沢直樹」のムードがただよっていた。『半沢直樹』から10年の時を経て、日曜劇場はついに次のステージへ進んだと言っていいだろう。
4位:ついに変わりはじめた日テレドラマ。主要4局が真っ向激突へ
近年の国内ドラマシーンは、TBSが日曜劇場を中心にオリジナリティの高い作品で勝負し、フジテレビが配信数トップを走るほか放送枠を増やす意欲を見せ、テレビ朝日が手堅い刑事モノだけでなく若年層向けの野心的な作品を増やすなど、それぞれが異なる存在感を放ってきた。
その一方、日本テレビのドラマ3枠は、保守的な刑事、医療や、平成中期に流行った女性の仕事奮闘記に偏りがちで、視聴率と配信再生数の不振だけでなく、話題にあがることすら少なかった。
しかし、2023年は方針を180度変えたように、攻めた姿勢の作品を連発。『リバーサルオーケストラ』『大病院占拠』『ブラッシュアップライフ』『だが、情熱はある』『こっち向いてよ向井くん』『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』『CODE-願いの代償-』『コタツがない家』『セクシー田中さん』と思い切ったコンセプトの作品を編成して、日テレドラマの停滞感を一気に吹き飛ばした。
この挑戦によって、スポンサー受けのいい若年層の個人視聴率が上がったほか、配信再生数やXのトレンド入りも増えるなど、もはや日テレドラマは民放他局と互角以上と言っていいだろう。通用しなくなった保守的なプロデュースに見切りをつけ、得意のマーケティングを生かしつつも、クリエイティブ・ファーストの姿勢を見せはじめた姿勢が視聴者に届いたのではないか。
3位:『大奥』圧巻のクオリティも国民的ドラマになれなかった理由
『大奥』は脚本・演出のクオリティに関して言えば、2023年に放送されたドラマのトップかもしれない。さらに言えば、見た人の視聴満足度もナンバーワンだったのではないか。
「江戸時代の大半を描いて、歴代徳川将軍たちの生き様を見せる」という壮大なスケール。原作・よしながふみ×脚本・森下佳子の手がける苦悩と絆、人の温かさと冷酷さ、覚悟と無念を描いた人間ドラマ。「謎の疫病に立ち向かう」という令和との類似性。歴代将軍と側近を演じた女優たちの鬼気迫る熱演など、長所をあげればきりがない。
そもそもセット、衣装、美術、所作、言葉などの難しさがある時代劇は制作が難しく、年2シーズンの放送は人、金、時間に恵まれたNHKでなければ実現できないだろう。そんなNHKならではの力業も含めて、『大奥』は国民的ドラマになれるレベルの作品だった。
しかし、世間への影響力は『VIVANT』に遠く及ばず、「放送されていたことすら知らない」という人も少なくない。実際、NHK「ドラマ10」での視聴率も、録画視聴率も、「NHKプラス」の配信再生数も、民放の他作品と比べると平凡な数値で終了。言わば、最高峰のクオリティであるにもかかわらず、見た人の数が少なく、ただただ「もったいない」と感じさせる作品に留まってしまった。
一方で『大奥』は3月と11月にNHKホールへ2,000人超の観客を集めて無料のファンミーティングを開催している。これはファンサービスの一環だが、有料かつ配信視聴も仕掛けた『VIVANT』と比べると、公共放送ならではのマイペースさを感じさせられた。 朝ドラと大河ドラマ以外のNHKドラマは認知度が停滞しているだけに、もっと多くの人々に見てもらうための方法はなかったのか。悔やまずにはいられないほど、極めて国民的ドラマに近い作品だった。
2位:2年連続「春のドラマ枠3増」向かう未来は成功か破滅か
昨年の当コラム第3位も「ドラマ枠増」について書いたが、2023年の春もまったく同じように3枠が増えた。
増えたのは、日本テレビの金曜24時30分~、カンテレ制作・フジの火曜23時~、ABC制作・テレ朝の日曜22時~。さらに秋にはフジの金曜21時~も新たなドラマ枠としてスタートを切り、現在各クールで約40本ものドラマが放送されている。
ドラマ枠が増え続けている理由は、「ドラマが配信ビジネスや他のマネタイズも含め、テレビ局の未来を左右するコンテンツ」とみなされているから。配信広告、有料会員獲得、海外への販売と配信、人気者を起用したスピンオフ制作、関連イベントやグッズ展開、シリーズ化や映画化など、さまざまな形で稼ぐことが期待されている。
ただ、まだ収益化は発展途上で「未来に向けた投資」という段階だけに、大切なのは「いかにクオリティの高い作品を手がけて実績と信頼を獲得できるか」。作品数が増えて競争が激しくなればレベルアップにつながりやすいが、どこかで見たような作品が増えるだけでは、視聴者とテレビ局の双方にメリットは少ない。ドラマ枠が増えたからこそ、「思い切ったジャンルや主人公の作品に挑んでいけるのか」が成功の鍵を握っている。
もう1点、注目すべきは、ドラマ枠だけでなく、脚本家の登竜門であるシナリオコンクールも増えたこと。これまではフジの『ヤングシナリオ大賞』が実績で頭ひとつ抜け、テレ朝が追随するのみだったが、2023年は日テレとTBSもプロジェクトを立ち上げて参戦した。新人脚本家たちが新たな風を吹かせれば、日本ドラマの未来も明るくなるだろう。
1位:日本ドラマに新たな指針を示した『VIVANT』の大冒険
のちに2023年のドラマについて語るとき、真っ先にあげられるのは間違いなく『VIVANT』ではないか。とにかくすべてが「見たことがない」という規格外のプロデュースで、視聴者だけでなく業界関係者を驚かせた。
堺雅人、阿部寛、役所広司をはじめ計44人の豪華キャストと、約250人のキャスト、スタッフ、約3,000頭の動物を集め、約1,000キロを縦断したモンゴルロケばかりフィーチャーされるが、『VIVANT』の本質はそこではない。
どんなジャンルのドラマなのか、どんな主人公なのか、何が目的の物語なのか、誰が味方で誰が敵なのかなど、すべてを謎に包み、さらに新たな謎を投入していくプロデュースは圧巻。視聴率を確保するためにわかりやすい設定やテーマを選ぶ作品ばかりの中、あえて「事前情報を伏せてまで難解さを極める」という決断が圧倒的なオリジナリティにつながった。
また、巧妙だったのは、放送終了後から次回放送までのブランクに、「考察を呼びかけつつ、Xで答えたり、裏話を明かしたりなどのコミュニケーションを取る」という双方向のPR。これらをネットメディアが記事化することも含め、1週間『VIVANT』の話題が絶えない状態を作っていた。
その他でも、「10回中13回が拡大版で実質13回分」の放送時間、毎週新発売される多彩なグッズ展開、有料ファンミーティング、ロケ地ツアーなどの多角的なマネタイズ、さらに「1話1億円」とも言われる制作費も含め、特筆すべきポイントが目白押し。 さまざまな点でこれまでのマーケティングや常識を度外視して大冒険したような作品であり、「見たことがないドラマ」だからこそ視聴者を熱狂させられたのだろう。「今後はこういう作品も手掛け、配信や海外も含めて勝負していく」というTBSの本気を感じさせられた。
同時にそれはTBSのみならず業界全体への問いかけでもあり、少なからず2024年以降、他局に『VIVANT』の影響が見られるのではないか。
最後に、好き嫌いではなく、主に“挑戦・差別化・希少価値”という観点で選んだ個人的な“2023年の年間TOP10”を選んでおきたい。
10位『初恋、ざらり』(テレ東)
9位『だが、情熱はある』(日テレ)
8位『あなたがしてくれなくても』(フジ)
7位『セクシー田中さん』(日テレ)
6位『おとなりに銀河』(NHK総合)
5位『あたりのキッチン!』(東海テレビ制作・フジ)
4位『ブラッシュアップライフ』(日テレ)
3位『ハヤブサ消防団』(テレ朝)
2位『大奥』(NHK総合)
1位『VIVANT』(TBS)
終わってみれば2023年のドラマ界は作品数が増えただけでなく、ジャンルが多彩な上に力作が多く、ここで挙げたものは一部にすぎない。未視聴のものは年末年始の休みを利用して動画配信サービスなどで視聴してみてはいかがだろうか。
ドラマ制作のみなさん、俳優のみなさん、今年も1年間おつかれさまでした。2024年も「多くの人々を楽しませる」「心から感動できる」ドラマをよろしくお願いいたします。