12月25日放送の『トクメイ! 警視庁特別会計係』(カンテレ制作・フジテレビ)を最後に2023年の主要連ドラがすべて終了。『VIVANT』(TBS)が社会的な話題になったほか、『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ)、『あなたがしてくれなくても』(フジ)、『大奥』(NHK総合)なども話題作としてネット上を大いに盛り上げた。

ここでは今年ドラマ業界で何が起き、どんな影響が出て、来年につながっていくのか。朝ドラから夜ドラ、深夜ドラマまで、全国放送の連ドラを全て視聴し続けているドラマ解説者の木村隆志が一年を振り返るべく、“2023年のドラマ業界10大ニュース”を選び、最後に“個人的な年間トップ10”を挙げていく。

10位:“『silent』ショック”に戸惑う制作者たち

  • 『silent』で主演を務めた川口春奈

2023年のドラマシーンは、昨秋に放送された『silent』(フジ)の影響を受ける形でスタートした。

同作は今なお全テレビ番組の見逃し配信再生数記録を持ち、しかも民放各局が最も求める若年層の支持を獲得。放送収入の減少が避けられない中、「配信でどう稼ぐか」は業界の重要事項だけに、2023年のドラマは『silent』を意識せざるを得ない状況になった。 とりわけ自然な会話を重視したセリフ、急展開に頼らず心理描写に重きを置いた脚本は、新人の生方美久が手がけたこともあって業界に一石を投じた。さらに、美しさと“間”や“音”にこだわった風間太樹監督の演出や、恋愛のみに絞って仕事や家族の物語をほぼ描かなかったこと、実在する場所や物をそのまま使ったこと。いずれも定番化していた「とにかくわかりやすく」「特別な設定や急展開で引きつける」というドラマプロデュースに多少なりとも変化をもたらす結果となった。

実際、『silent』は若いアラサーの脚本家とチーフ演出家が手がけた作品だったが、その成功によって中堅・ベテランも視聴率確保のために定番化した形にとらわれず、「心の動きをじっくり描き、しっかり時間を割いて各シーンを見せる」ような作品に回帰した感もある。

また、村瀬健プロデューサーと生方美久ら『silent』のスタッフが再び結集した『いちばんすきな花』もセリフと心理描写にこだわった作品で、こちらも配信再生数は今年トップクラスの数値を記録。視聴者にもこの脚本・演出スタイルが浸透しているのは間違いない。

9位:小芝風花・堀田真由・今田美桜ら若手俳優、空前の出演ラッシュ

  • 小芝風花 撮影:宮田浩史

2023年は「特定俳優の出演ラッシュがドラマ史上最も多かった一年」と言っていいかもしれない。まずは3作以上の連ドラにレギュラー出演した主な若手俳優をざっとあげていくと……

小芝風花は『波よ聞いてくれ』(テレビ朝日)主演、『転職の魔王様』(カンテレ制作・フジ)ヒロイン、『フェルマーの料理』(TBS)ヒロイン。堀田真由は『大奥』(NHK総合)、『風間公親-教場0-』(フジ)、『CODE-願いの代償-』(読売テレビ制作・日テレ)、『たとえあなたを忘れても』(ABC制作・テレ朝)主演。今田美桜は『ラストマン-全盲の捜査官-』(TBS)、『トリリオンゲーム』(TBS)ヒロイン、『いちばんすきな花』(フジ)主演。仁村紗和は『美しい彼』(MBS制作・TBS)、『わたしのお嫁くん』(フジ)、『真夏のシンデレラ』(フジ)、『SHUT UP』(テレビ東京)主演。桜田ひよりは『沼る。港区女子高生』(日テレ)主演、『家政婦のミタゾノ』(テレ朝)、『あたりのキッチン!』(東海テレビ制作・フジ)主演。赤楚衛二は『舞いあがれ!』(NHK総合)、『風間公親-教場0-』、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と-』(TBS)、『こっち向いてよ向井くん』(日テレ)主演。杉野遥亮は『どうする家康』(NHK総合)、『罠の戦争』(カンテレ制作・フジ)、『ばらかもん』(フジ)主演。萩原利久は『月読くんの禁断お夜食』(テレ朝)主演、『真夏のシンデレラ』(フジ)、『たとえあなたを忘れても』(ABC制作・テレ朝)。菊池風磨は『大病院占拠』(日テレ)、『隣の男はよく食べる』(テレ東)主演、『ウソ婚』(カンテレ制作・フジ)主演、『ゼイチョー~「払えない」にはワケがある~』(日テレ)主演。

もちろんというべきか、引く手あまたの中堅俳優は今年も健在。松下洸平は『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』(カンテレ制作・フジ)、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日テレ)、『潜入捜査官 松下洸平』(TVer)主演、『いちばんすきな花』主演。田中圭は『リバーサルオーケストラ』(日テレ)、『unknown』(テレ朝)主演、『ブラックポストマン』(テレ東)主演。ムロツヨシは『どうする家康』、『星降る夜に』(テレ朝)、『うちの弁護士は手がかかる』(フジ)主演。また、「連ドラ初」「ゴールデン初」などそれぞれ条件は異なるものの、小池栄子、木南晴夏、板谷由夏など実績十分のバイプレーヤーたちが満を持して“初主演”を飾ったことも2023年のトピックスだろう。通常連ドラのレギュラー出演は年2本程度に留まり、主演俳優なら年1本が主流。最低でも2クール空けなければ演じるほうは難しく、見るほうは飽きやすいだけに、ここであげた年3作以上の俳優は「出すぎた」のかもしれない。では、なぜこれだけ多くの俳優が「出すぎた」のか。その背景については第2位であげていく。

8位:“TVer初のオリジナルドラマ”に民放5局が制作協力

  • 『潜入捜査官 松下洸平』で主演を務めた松下洸平 撮影:泉山美代子

ここで扱うのは、基本的に地上波で放送された無料の作品に限定しているが(BS・CS、有料配信は含まない)、「民放主要5局を横断した無料ドラマ」のため、例外的にTVer初のオリジナル作『潜入捜査官 松下洸平』をピックアップしたい。

そのあらすじは、「俳優として活躍中の松下洸平が、実は大物俳優・佐藤浩市のマフィア疑惑解明のために15年も前から芸能界に潜入していた捜査官だった」というもの。松下洸平に加えて佐藤浩市、馬場ふみか、古田新太らも本人役で出演するほか、民放主要5局のバラエティもそのまま使われた。

画期的だったのは、劇中で松下が『ぐるぐるナインティナイン』(日テレ)、『あざとくて何が悪いの?』(テレ朝)、『ラヴィット!』(TBS)、『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』(テレ東)、『全力!脱力タイムズ』(フジ)に出演し、これらの番組も実際に放送・配信されたこと。つまり、「ドラマの視聴者にバラエティの面白さを伝え、バラエティの視聴者にドラマへの興味を持たせる」という戦略だった。

リアルとフェイクを交錯させて笑いを誘う脚本・演出は見事だったが、それ以前に民放主要5局が制作協力する試みはTVerならでは。Netflixら強力な動画配信サービスのコンテンツに対抗するには、時にこのような“チーム民放”の力を結集させたような作品が必要なのかもしれない。

7位:大河ドラマ『どうする家康』の史実問題と比較対象との差

大河ドラマ『どうする家康』は、最初から最後まで何かとツッコミを入れられる作品だった。

序盤から家康の情けないキャラクター設定と、それをアイドル・嵐の松本潤が演じることに違和感の声があがっていたが、批判がピークに達したのは「築山殿・信康事件」が描かれた第24話前後の物語。

「家康(松本潤)が妻・瀬名(有村架純)と息子・松平信康(細田佳央太)を失う」というストーリーが史実通りだった一方で、「家康と瀬名は夫婦仲が良かった」「瀬名は悪人ではなく善人で慈愛の国を作ろうとしていた」「それに徳川も武田も賛同し、空砲を撃ち合い戦のフリをした」などのシーンに厳しい声が続出。「変えてはいけないところを変えてしまった」という解釈の視聴者がネット上に不満を書き込み、「ファンタジー大河」「メルヘン大河」などの酷評を受けてしまった。

脚本を担ったのは業界内で「この人の作品に外れなし」と言われる古沢良太であり、その技術に疑いの余地はない。しかし、「新たな視点で、誰もが知る歴史上の有名人 徳川家康の生涯を描く」「ひとりの弱き少年が、乱世を終わらせた奇跡と希望の物語」というコンセプトにとらわれすぎたのか。“新たな視点”“奇跡と希望”の部分が「史実や時代のムードとは違いすぎる」と受け入れない大河ファンが少なくなかった。

その他にも、家臣団の単純な人物造形や細身イケメンを多用したキャスティング、合戦シーンの映像など、ツッコミを入れられたところは多かったが、最大の不運は、昨年放送された『鎌倉殿の13人』と、今年2シーズンにわたって放送した『大奥』と比べられたこと。

前者が自他ともに認める“大河マニア”の三谷幸喜、後者がよしながふみの原作漫画×脚色名人・森下佳子の脚本であり、史実を押さえながら人間ドラマを見せる技術は国内最高峰だけに、初大河の古沢にとっては比べられる相手が悪かったのかもしれない。

6位:『らんまん』『ブギウギ』朝ドラ再び戦前戦後の偉人伝へ

  • 『ブギウギ』ヒロインを演じる趣里

2023年の朝ドラは3月で現代劇の『舞いあがれ!』が終わり、4月から植物学者・牧野富太郎がモデルの『らんまん』がスタート。さらに10月からは歌手・笠置シヅ子がモデルの『ブギウギ』がスタートした。

『らんまん』『ブギウギ』はともに戦前戦後の時代を描いた物語であり、歴史に名を残す偉人伝とも言える作品。近年の朝ドラは、3世代・100年を描いた例外の『カムカムエヴリバディ』を除けば、『おかえりモネ』『ちむどんどん』『舞いあがれ!』と現代劇が続いていただけに、「再び“戦前戦後の偉人伝”に戻った」と言っていいだろう。

さらに2024年春スタートの『虎に翼』は日本発の女性弁護士・裁判官となった三淵嘉子がモデルで、2025年春スタートの『あんぱん』も漫画家・やなせたかしと妻の物語と“戦前戦後の偉人伝”路線。2024年秋スタートの『おむすび』は現代劇だが、ベースは“戦前戦後の偉人伝”というスタンスがうかがえる。

もちろん脚本・演出などのクオリティによる違いもあるが、“批判の受けやすさ”で言うと、それ以上に時代背景によるところが大きい。実際、『らんまん』『ブギウギ』は、『ちむどんどん』『舞いあがれ!』よりも「#反省会」などの批判的なコメントは少なく、「厳しかった時代の物語」のほうが現在の自分に置き換えづらく、ツッコミを入れづらいのではないか。

朝ドラは生活に密着した帯ドラマであり、期待値が高い分、誹謗中傷のような批判につながりやすいだけに、今後も戦前戦後の物語をベースにしていくのかもしれない。