その一番打者として白羽の矢が立ったのが『極限夫婦』だ。
「“復讐”という尖ったテーマを1年間、DMM TVさんとやろうとなったとき、次クールに対する責任もありますから失敗は許されない。そこで最初に花火を上げるという意味でも人気原作、しかもカンテレの深夜で見てもらえるであろう作品を選択しました。1話完結的なオムニバスですが、一つの夫婦のエピソードをしっかり3話(ラストの夫婦は4話)かけてじっくりと描く。普通、地上波ではコンプライアンスなどの問題で成立しにくい企画でも、DMM TVさんとの取り組みということでGOサインが出る場合がある。これはクリエイターにとってありがたい環境なので、確実にこれまでのドラマとは違うものが出来上がるはずです」(吉條氏)
そういう意味では、地上波でも放送されるドラマであるにもかかわらず、カンテレは通常ではありえないタブーに挑んでいる。深夜といっても24時台というまだ皆が起きている時間帯でもあり、「会社内、及び編成との戦いでもある」と吉條氏は語気を強める。その言葉からは、テレビドラマへの愛と葛藤、苦悩が読み取れる。
これに久保田氏は「地上波ではコンプライアンスなどでなかなか思い切った企画が通りづらい。でもDMM TVが“この企画面白そう!”と言えば、カンテレさんも会社としてOKが出しやすいと思いますし、クリエイターの方々の背中も押せる。ちょっと尖ったものでも“DMM TVとのコラボ企画なら”と理屈が通りやすくなるのではないかと思いました」と応える。
両者ともに現在の地上波ドラマへの危惧、またその要因となる壁を壊す「タブーに挑戦する」ということで、認識が一致しているようだ。
クリエイターが思い切って制作できる場に
今回の取り組みの作品は、地上波だけではなく、DMM TVで1年間独占配信、TVerやカンテレドーガでも見逃し配信される。
「視聴率のみがKPI(指標)に来てしまうと、どうしても地上波に適したクリエティブになってしまう。クリエイターに思い切って制作していただける場としてマインドセットしてもらえれば」(久保田氏)
「地上波、そして挑戦ができる配信サービス、そのいいとこ取りをして制作する『極限夫婦』を見ていただき、それを“カンテレが制作しているんだ”と知ってもらえれば、弊社がフジテレビ系列で全国放送している月曜10時枠のドラマも見ようと思ってもらえるかもしれない。また『極限夫婦』のこだわりを見て、視聴者の皆さんがテレビを見直してくれたらうれしいですね」(吉條氏)
『極限夫婦』は3つのオムニバス形式で構成され、夫婦役は1~3話に松村沙友理&竹財輝之助、4~6話に岡本玲&桐山漣、7~10話に北乃きい&平岡祐太という俳優陣をそろえた。地上波と配信という双方のメリットを融合することによって誕生した枠の作品たちが、どのような結果を出すのか。貴重な試金石となりそうだ。
●久保田哲史
1995年にフジテレビジョン入社。ドラマ制作・海外事業を歴任し、19年にAmazonスタジオのHead of Scripted Originalsとして移籍。22年、DMM TVローンチを機にDMM.comに移籍し現職。フジテレビではドラマ制作で『医龍』『離婚弁護士II』『東京タワー』『ムコ殿』『人にやさしく』などを担当。海外事業で『空から降る一億の星(韓国版)』など、Amazonで『No Activity』『Homestay』などを担当した。
●吉條英希
1990年、関西テレビ放送に入社し、バラエティ・ドラマの制作に従事。ドラマ制作で『マザー&ラヴァー』『アンフェア』『モンスターペアレント』『白い春』『まっすぐな男』『ギルティ』などを担当。映画『アンフェア the movie』『アンフェア the answer』『アンフェアthe end』なども担当した。