いよいよ残り3回となった大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)。本作の脚本を手掛けた古沢良太氏にインタビューし、全48回を書き終えた心境や、新しい家康像を描いた理由、史実の範囲内で新解釈に挑戦した思いなど話を聞いた。
『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』シリーズなどで知られる古沢氏。本作では、江戸幕府を開いた徳川家康の生涯を新たな視点で描き、その新しい家康像を松本潤が演じている。
■大河ドラマは「1人の人生を最初から最後まで描けるありがたい場」
脱稿した古沢氏は「2年ぐらいかけてずっと書いていたので、やっとゆっくりできて少しずつ人間らしい生活を取り戻しつつ、まだ終わったという実感がそこまで持てなくて、心のどこかで直しの要求に備えている自分がいます」と心境を告白。
本作で初めて大河ドラマを担当し、「こんなに長いドラマを書かせてもらえる場はここしかないので、脚本家にとってはめちゃくちゃうれしいことです」とやりがいを語る。
「普通のドラマは10話くらいなので、もっとここを掘ったら面白くなるのになと思いながら終わってしまう中、48回もあったらいろんなことができる。今まで描かれてこなかったこともイメージを膨らませて想像し、歴史に残ってないことのほうが面白く書けるのでそういうのを楽しんで書きました。それをやりすぎた感もありますが(笑)。1人の人生を最初から最後まで描けるというありがたい場だなと思います」
そして、「最初に作った構成通りにはいかないだろうと思って書いていましたが、最終的にはほぼプラン通りだったので、うまくいったのではないかなと自分では思っています」と納得の表情を見せた。
■「家康は天才ではなかった」という解釈から生まれた新しい家康像
本作では、徳川家康を偉人として描くのではなく、“ナイーブで頼りないプリンス”という今までにない家康像を打ち出し、1人の弱き少年がいかにして乱世を終わらせたか、新たな視点で生涯を描いている。
古沢氏は、新しい家康像を打ち出した理由について「歴史上の重要な人物としての家康は今までに描き尽くされているので、僕は歴史の年表でもなく偉人伝でもなく、1人の普通の子がどうやって乱世を生き抜いていったのかという物語にしたかった」と説明。「一私人としての家康の人生をどう魅力的に描いていくかというと、家臣たちとの絆や家族との物語が大事だと。なるべくそっちを重点的に描きたいと思いました」と語った。
そして、なぜ家康は後継者へしっかりとバトンをつなぎ、約260年間も続いた江戸幕府の礎を築くことができたのか「ずっと考えていた」と言い、「家康は天才ではなかった」という結論にたどり着いたという。
「織田信長、豊臣秀吉、武田信玄、今川義元などいろんなスターが出てきますが、彼らはみんな一代で隆盛を築いて跡継ぎに継承するときに失敗し、滅んだり力を失ったりしていて、家康だけがなぜ成功できたのかというと、家康だけが天才じゃなかったのではないかと。信長たちが天才だったとすると、天才は天才にしか運営できない仕組みを作ってしまうから継承できない。家康は普通の人だったから、普通の人が運営できる体制を作り、秀忠に継がせ、それが続いていったのではないかなと僕なりに解釈しました」
その考えから生まれた新しい家康像。古沢氏は「天才でもなく、むしろか弱い凡人として描くのが新しいと思うし、このドラマのテーマになると思ったのでそこからスタートし、彼の人生は本当に艱難辛苦の連続なので、それを経る過程で変貌していくというのがやりたいなと思いました」と語った。