40年という年月で、リビングにある1台のテレビを家族みんなで見るという時代から変わり、スマートフォンやタブレットの普及によって“大衆”が捉えにくくなったと言われる。それに伴い、「流行語というものが生まれにくくなっているというのは、確かにあると感じています」という。
それと同時に近年感じる傾向は、流行語のサイクルの速さ。背景として、「SNSが生まれて一部のコミュニティで流行る言葉が増えてきて、その中で新しいものが繰り返し生まれるのだけれど、そこから外に広まっていない可能性があるのではないか」と分析する。
だからこそ、「新語・流行語大賞」は、「“この言葉はそんなに流行ってない”と批判的なご意見もずっと頂いてきましたが、やはりその年に生まれた言葉を記録して残すというのを意識しています」と使命感を持って選出。インターネットの普及でアンケート調査が容易になったこともあり、近年は様々な切り口での“◯◯流行語大賞”が乱立状態にあるが、選考委員がその意識を持って臨むことで、存在意義を示していると言えるだろう。
“元祖”の立場として、他の“◯◯流行語大賞”への見解を聞くと、「皆さんそれぞれのスタンスでやられているのは、いいことだと思いますし、私たちも面白く拝見しています。うちはたまたま40年続けてやってきているだけで、自分たちが権威だとも思っていませんので」と謙虚に答えた。
■「24時間タタカエマスカ」から「働き方改革」、「セクハラ」から「性加害」へ
大きく価値観が変わったジャンルの一つが、“働き方”。89年にはリゲインのテレビCMから生まれた「24時間タタカエマスカ」があったが、17年には「働き方改革」、18年には「時短ハラスメント(ジタハラ)」がノミネートされ、働き続けることに疑問を持たない時代から、ワークライフバランスが重視される時代になった。
99年のトップテンに選ばれた「癒し」を象徴した坂本龍一さんのヒット曲「energy flow」が、「24時間タタカエマスカ」を生んだリゲインのCMで使用されたというのは、この変化を象徴する事象と言えるだろう。
また、89年に選ばれた「セクシャル・ハラスメント」は世間に定着し、この言葉によって被害者が声を上げやすくなった効果もあるが、今年のノミネートに「性加害」が入った。旧ジャニーズ事務所の問題だけでなく、元女性自衛官が訓練中の性暴力被害を訴えたことも含めたものだが、ある選考委員からは「『セクハラ』という言葉は当時は新しかったけど、今思うと軽く感じる。もはやハラスメント(嫌がらせ)ではなく『性加害』という犯罪なんだ」と意見が出たという。
今年は「頂き女子」「闇バイト」という言葉もノミネートされており、大塚氏は「言葉が話題になって犯罪として認知される面は良いと思うのですが、言葉によって軽いイメージを持たれるのではないかと気になるところがあります」としながらも、世の中で使われた言葉として記録している。