――今後についてはどのように思い描いていますか?
未来のことは全くわかりませんが、1日でも長く役者を続けたいです。出番が少なくなってもいいので、おじいちゃんになっても役者を続けられたらうれしいです。もしほかに面白いことが見つかったら辞めるかもしれませんが、たぶんほかにそういうものが出てくることはないと思うので、ずっと続けていけたらと思っています。
――やはり俳優業にとてもやりがいを感じていらっしゃるんですね。
あと、俳優という仕事について個人的に探っていきたいと思っていることがあって……最近は役者がバラエティに出て番宣していますが、ゲームとかに参加して最後にドラマの告知をするという、あれは何なんだろうと思うこともあります。右に倣えという感じでどこもやっていますが、1回疑問を持ちたいなと。
――ドラマの舞台裏を紹介するような事前番組はいかがでしょう?
あれはいいですよね。裏側を見せてドラマを見たくなってもらうという。でも、全然関係ない番組に出て、最後に一言告知するというのはどうなのかなと。バラエティに出たいという俳優もいると思いますが、僕はあまりバラエティには……。
■「自分に絶望した」元芸人ならではの葛藤も
――芸人さんをやられていたので、むしろバラエティにも出たいというタイプなのかと思っていました。
初期の頃はそうでした。でも、映画の番宣でバラエティに出た時に、バラエティはもう無理だなと思ったんです。『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE 2 サイキック・ラブ』という映画で劇団ひとりと共演したのですが、省吾(劇団ひとり)は同じライブハウスでしのぎを削ってきた同期で、バディ役で共演してすごく楽しかったです。でも、省吾と一緒に番宣するために深夜番組に出たら、平場のトークの勘が鈍ってしまっていて。もちろん役者として対応すればいいんですけど、省吾や芸人たちがイジってきた時にいい返しができなくて自分に絶望しました。
――そこからバラエティはあまり出たくないと思うように?
芸人と絡む時は欲張らないように、欲張って面白いことを言おうとしないようになりました。役者さんがパーソナリティを務めているラジオに呼ばれたときは、僕が番組を盛り上げることはできるかもしれないと思ってしゃべりますが、バラエティに出るのは怖いです。
――元芸人さんならではの葛藤ですね。
そうですね。コメントを求められたときに、ユーモアある感じでいけるかもしれないけど、それが中途半端になったら最悪だなと。あと、テレビで売れてしまうと、テレビの人という印象になってしまい舞台を見に来てくれなくなるんです。「お金を払ってでも安井さんを見たい」と思ってもらえる俳優になりたいという思いがあるので、そういう意味でも、なんとなくバラエティに出るというのは避けたくて。自分の意志で出たいと思って出るのはいいですけど。それはドラマも映画もそうで、自分が出る意味があるのかというのは考えます。
――出演するものはしっかりと見極めているんですね。
「安井順平が出ている作品は面白いんだよな」と言われる俳優になりたいという思いもあるので。偉そうに思われるかもしれませんが、お世話になった方に「1シーンなんですけどぜひ安井さんに」と言われたら出ますよ。『silent』のプロデューサーであるフジテレビの村瀬(健)さんは、日本テレビでADをしていた頃に僕もペーペーの芸人で「何かやりたいですね。頑張りましょう」と話していたんです、その村瀬Pから『silent』のときに「安井くんに力を貸してほしい。1シーンなんですけど」と言われ、「やります」と。そういう義理人情なところもあります。
■活動の軸は舞台も映像作品の楽しさも実感
――ドラマや映画にも出演されていますが、活動の軸はやはり今後も舞台に?
そうですね。
――生の反応があるというのが舞台のやりがいでしょうか。
そこですね。芸人をしていた時も、ライブでお客さんを笑わせている時が一番楽しかったです。演劇はお客さんが空気を作ってはじめて完成するので、集中してくれるとこっちの芝居もどんどん上がってきて、とても良い公演になります。お客さんと一緒に作っているんだということはSNSなどでどんどん言っていこうと思っています。そうすると見ている人も、一緒に作れる舞台に興味を持ってくれるのではと思うので。もちろん映像は映像で楽しい部分がたくさんあって、『ブギウギ』では趣里ちゃんや草なぎ剛さんと出会うことができ、演劇だけやっていたら出会えない人たちに出会えるのはうれしいです。
――舞台も映像作品もそれぞれにやりがいがあるわけですね。
作品ごとに違う現場で違う仕事ができるというのは新鮮ですし、ほかにはなかなかない仕事だなと思います。今、好きなことはこれしかないので、これからも役者を長いことを続けられたらと思います。
1974年3月4日生まれ、東京都出身。1995年お笑いコンビ「アクシャン」としてデビュー。2007年より俳優として活動し2014年に第21回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。劇団イキウメ所属。舞台のみならず、映画、ドラマと多方面で活躍している。
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