フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で19日に放送された『山本さんちの食卓 ~笑いと涙のサポートハウス~ 前編』。20代から70代まで他人同士の7人が一つ屋根の下で暮らす石川・金沢市の一軒家「サポートハウス」(通称・サポハ)の人々を追った作品で、この「後編」が26日(通常と異なり13:40~)に放送される。
今回の取材を通し、家の主である山本実千代さん(62)に自身もパワーを受け取ったというのは、王識涵(ワン・シーハン)ディレクター(スローハンド)。サポハに次々と人が集まってくる理由とは――。
■“他人”という概念がない
サポハに暮らすのは、障害や家庭の問題などで居場所を失った3人の若者たちと、彼らを見守る大人たち。毎晩、一緒に囲む食卓が、家族ではない彼らをつないでいる。
山本さんは、「生きることは食べること。食べることは生きること」をモットーに、食事を何より大切にしている。毎晩の食卓には、自ら育てた新鮮な野菜で作る大皿料理がズラリ。どれも手間暇かけて仕込んだものばかりで、若者たちは山本さんの料理に背中を押されながら、自立を目指している。
王Dがサポハを取材することになったきっかけは、「3年くらい前に、よく通っているバーで山本さんをすごく尊敬している林真未さんという方と出会って、林さんがサポハのことを書いた『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)という本を送ってくれたんです。それを読んで、“ちょっとすごいな”と思って、山本さんに会いに行きました」という経緯。そこから、いつかドキュメンタリー番組にすることを考えながら通い続け、今年6月中旬から取材を開始した。
実際にサポハに行って取材すると、山本さんにさらなる魅力を感じた。
「サポハに入ったら、みんな山本さんの子どもみたいな感じになるんです。それは山本さんの中に“他人”という概念がないからではないかと思います。誰のことでも自分のことだと思って、そこがすごく素敵だなと思いました」
エネルギッシュでパワフルな山本さんは、周囲から「頑張りすぎないか心配」という声が出てくるほど。
「もちろん他の方のサポートもあるのですが、1人で全部抱えて限界までやる人なんです。昨年、脚の手術をしてそんなに歩けないのに、朝8時半から台所に立って夜のおかずを作って、誰かの病院の送迎をしたり、畑に行ったり、また台所に立って、立ち話して…。カメラを回してるだけの私でも疲れたのに、62歳の山本さんは大丈夫なんだろうかと、見ていて心配になりました」
さらに、知的障害のつばささんが勤務先で望まない異動を命じられた問題について、会社側に「舐めとったらあかんで」と何度も怒りをあらわにしたシーンがあったが、王Dが「人のために戦うところもあって、カッコいいですよね」と言うように、強い正義感も兼ね備えている。
■あまりの美味しさにカメラを置いて料理優先
これまで50~60人の若者の自立をサポートしてきたが、それができる背景にあるのは、“みんなで子育てする”という姿勢だ。
「山本さん自身が知的障害の息子さんを育てて、お母さん1人だけでは絶対に大変だということが経験から分かっているので、いろんな人に助けてもらった分、自分がそれを返している。それにプラスして、自分から人を巻き込んで、その人たちと一緒に困難のある子どもたちを助けていこうというパワーを持ってるんです」
番組の中でも様々な人たちがサポハに集まってくるが、「実はもっともっといろんな人がいて、放送に入り切らなかったんです。サポハを巣立っても2週間に1回ご飯を食べに来る人がいたり、休みの日に一緒に畑に行く人もいたりして、本当に小さなコミュニティができあがってる感じですね」とのこと。この“巻き込み力”の源は、山本さんのパワーと、彼女の作る食事の美味しさだ。
大皿でたくさんの量を作っているが、ただお腹いっぱいにさせるのではなく、それぞれの好みに合わせて予算の中で毎日レシピを考え、手間をかけて作っているのだそう。「味付けが上手で、本当に上品な料理を作っているんです。そうすることで、食べることの楽しさが分かるし、なおかつみんなでワイワイ食べると元気になるという考えがあります」と、食には強いこだわりを持っている。
その料理を食べた王Dは「取材中だったのですが本当に美味しいので、カメラを置いて定点で撮影しちゃって。後で編集作業のとき、『なんで顔を寄りで撮ってないの!』と怒られてしまい、『すいません、ご飯食べてました』と反省しました(笑)」と、仕事そっちのけになってしまうほどの味だそうだ。