2020年度後期のNHK連続テレビ小説『おちょやん』で主人公・千代(杉咲花)の親友・みつえ役を演じ注目を集め、その後、数々のドラマに出演している女優・東野絢香。10日に公開を迎えた映画初出演作『正欲』では主要キャラクターの一人である神戸八重子を演じている。東野にインタビューし、演じていて初めての感覚を味わったという『正欲』の撮影を振り返るとともに、『おちょやん』を機に変化したという女優としての意識など話を聞いた。

  • 東野絢香

    東野絢香 撮影:蔦野裕

朝井リョウ氏による同名小説を、稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香を迎え映画化した『正欲』は、家庭環境、性的指向、容姿――異なる背景を持つ人たちを描写しながら、人が生きていくための推進力になるのは何なのかというテーマを炙り出していく物語。東野は、あることから男性がずっと苦手だったのに、同じ大学に通う諸橋大也(佐藤)だけはなぜか平気で、ダンスの練習に励む大也から目が離せなくなる神戸八重子を演じた。

■「思っていることを歪曲せずに伝えられる言葉を日々考えている」

――オファー受けた時の心境からお聞かせください。

原作と脚本を読み込み、自分の表現でどこまでできるんだろうという不安がありましたが、ものすごくうれしいという気持ちが一番でした。

――難しい役どころだったと思いますが、八重子をどのように捉えていましたか?

八重子はトラウマや傷を抱えていますが、私が女性として生きてきた中で、不安や恐怖心は少なからず感じたことがあるので、八重子が抱えているものとは違いますが、大筋は経験したことがあるのではないかと思いました。傷や怖さ、トラウマを抱えた中でも、人と関わることを諦めていない大学生だなと感じました。

――ご自身と重なる感情を引き出しながら演じられたのでしょうか。

そうですね。八重子が取った選択肢をもしかしたら自分も取っていたかもしれないので、彼女の選択肢や進んだ分岐点を想像し、彼女にもし違う未来があったらどうなっているのかなということも考えました。

――東野さんは人と関わる際にどういう意識で接していますか?

いいことばかりを言う訳ではないですが、丁寧に人と関わるように意識していて、自分が思っていることを歪曲せずに伝えられる言葉を日々考えています。それでも不意に思ったことをストレートに言ってしまう時があり、傷つけてしまったのではないかなと反省しています。

  • 東野絢香

――八重子の傷やトラウマに近しいものは感じたことがあるとのことですが、ほかに共通する点がありましたら教えてください。

私もお菓子が大好きなので、何かに没頭している時にお菓子を食べているのは似ているなと思いました(笑)。あと人と関わる時に私も諦めないタイプで、関係性が悪くなっているかもと思った時に、一歩踏み出すことは日常でしているなと思いました。

――そこで一歩踏み出せるというのはすごい勇気ですよね。

一歩踏み出す怖さよりも、踏み出さない怖さのほうが強くて、例えば、誤解を与えたまま関係性が離れていくほうが怖いなと。あとで後悔しそうなので踏み込むようにしています。

■初めての感覚を味わい“プレゼント”をもらったような気持ちに

――この映画はいろいろと考えさせられる映画だと思いますが、ご自身は何か学んだことや影響を受けたことはありますか?

いろんな指向や価値観の方がいるというのはわかっているつもりでしたが、想像の範囲を出ていなくて、人と関わる時に適切な関わり方を考えねばと思いました。その反面、適切な関わり方を考えすぎて関わらなくなるのも健康的ではない気がするし、人の愛し方や社会との関わり方、日々の生活の仕方など、より自分の意志を持って選択して進んでいかなきゃと改めて感じました。

――女優として新たな気づきや学びがありましたらお聞かせください。

岸(善幸)監督や相手役の佐藤寛太さん、スタッフの皆さんと撮影を進めていき、緊張しているなとか、汗をかいているなとか、自分の身体の状態を全部忘れられる瞬間……相手の目だけ見えるようになった瞬間があり、深いところまで潜り込むというのはこういうことなのか! と感じました。初めての体験で、ほかの作品でもこれぐらい深く表現を掘ることができたらすごくいい作品ができるのではないかなと、何かつかめたような感覚でした。

  • (C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

――どうやってその感覚をつかんだのでしょうか。

私も含めてみんなが作品を良くすることだけを考えて、それがぴったりハマったのかなと。明確にはどうしてそんなに集中できたのかわかりませんが、誰1人違う方向を向いてなかったからもらえたプレゼントみたいな気持ちで、味わったことのない身体の感覚になれてすごくありがい経験でした。

――本作が映画初出演となりましたが、その感想もお聞かせください。

試写で見たときは「スクリーンに私がいる!」と不思議な気持ちになりました。でもまだ実感は湧いていなくて、お客さんから感想をいただいた時に初めて、映画に出られたんだと実感が湧くのかなと思います。