• 斉藤由貴 撮影:蔦野裕

――斉藤さんは来年で芸能生活40周年を迎えます。

そうなんだ! やだー(笑)

――ご自身の仕事を振り返って、どんな40年でしたか?

長くてゆるくて適当な40年だったような気がしますね(笑)。もちろん、大変なことはたくさんありました。ですがだからこそ、ゆるくてぬるくて適当にそれを乗り越えるすべを、いつの間にかに身につけた感じがします。少なくとも精密で完璧主義者で生きてきたわけではないです。

――意外です!

それこそ『スケバン刑事』の時代も、仕事をきちんとやろうとか、そういうことを考えている暇がないぐらいにどんどん次の仕事が来るんです。そんなとき、私にできるのは、穴を開けず、四方八方から投げられてくるボールをとにかく打ち返す。打ち返す先の精度よりも、全部打ち返すことが大事。そういった意味での「適当」ではありますね。

理屈や御託の前にとにかくやる。「できない」「無理」「それじゃ休めない」とかではなく、馬車馬になってもいいから、与えられた仕事はとにかくやらなければいけないと思ってました。そこから初めて自分の意見が芽生えてくるというような生き方だったと思います。

――経験をして乗り越えたからこそ、芽生えるんですね。

そうです。何も知らないうちから「無理」なんて決めつけては広がらない。正解ではないんでしょうけど、一言で言えば「観てくださる方が納得してくださればいい」というお芝居もしてきたように思います。よく結婚式の披露宴で30分も決められたような祝辞を述べられる方がいらっしゃいますが、それよりも、はちゃめちゃな5分でもいいから心がこもっていて、エネルギーや面白さが内包されたもののほうが心に残るじゃないですか。

――確かに。

テレビや映画を観てくださる方も、台本を持って私たちのお芝居を観ているわけではない。肝心なのは、その通りにやることではなく、観てる側に物語の言わんとすることや、そのときの人間の感情の揺れが届くかどうか。テレビ画面やフィルターや媒体を乗り越えていかに感動させるか、笑わせられるか、ウキウキさせるか、あるいは切なくさせるか。そうした熱量を届けることが主体だと、私は思うんです。

台本をそのままなぞるのではなく、それよりもお客さんが「感動した」とか「そうだよね」「圧倒された」って思ってもらいたい。逆に「ちゃんと指示通り指定通りやってるね」って思ってもらわなくてもいい。

――なるほど。斉藤さんのお芝居が心に届く理由が分かった気がします。

だからある意味、私は演出家や脚本家の方にいつもケンカを売っているようなところがあります(笑)。にっこり笑って「すみません、間違っちゃいました」と言いながらも、「お客さんに納得してもらえればそれでいい」と思っているところがありますね。

――ザ・表現者という感じですね。

でもそれがいいか悪いかと言えば、たぶん悪いところもたくさん背負っていると思います。それによって私が得られなかった仕事とか、あるいは私のそうした表現の雑な部分が悪い面に転がったところも、必ずしもないわけではないと思う。だけどそれを承知の上で、あえて私は、自分の信じるアプローチで演じてきたように思います。そんな40年でした。

  • 斉藤由貴 撮影:蔦野裕

■エゴイスティックだし、暴力的なやり方だった

――斉藤さんと言えば、清純派、知性派としてのイメージが付与されていたと思うのですが、当時それは窮屈ではなかったですか?

そこに関しての悩みはなかったですね。清純派と言われるから清純をお届けしなきゃとか、知的と言われるから勉強しなきゃとかも思わない。自分の思うことを大事にしてきただけ。それはたぶん、清純派とは真逆にすごくエゴイスティックだし、暴力的なやり方だったと思います。でも私はそういう風にしかできなかった…。

――ご自身を貫くしかなかった。

というか、それ以外のものを追求したとして、とても遠回りになるんじゃないかと。限られた時間の中で、それ以外のことをやっている暇はなかった。特にこの年齢になり、死というものを意識するようになってきて、余計、そうやって自分を煩わせるものが無駄に感じるようになった。芸能界なんてある意味、軽薄さとフェイクみたいなものが正しいとされがちな世界観じゃないですか。その中で、どれだけの人の心をつかめるのか、そっちの方が大事だと、デビュー当時からなんとなく察知していたように思います。

――40周年を迎えられますが、今後チャレンジしていきたいことはありますか?

ちょっと海外に住んでみたいというところはありますね。ずっと日本にいると、それだけで気持ちが淀んでしまうという思いがあります。あとは新しいチャレンジというより、マネージャーさんが「こういうお仕事どうですか」と言われたら「いいんじゃない」って答えて、時が経ってから「そう言えばその台本、どこへ行ったっけ」っていうぐらい、ゆるくぬるくやっていきたい。何か特別にこれをしたい、っていうより、その時の流れでいいと思います。

  • 斉藤由貴 撮影:蔦野裕
  • 斉藤由貴 撮影:蔦野裕

●斉藤由貴
1966年生まれ、神奈川県出身。84年、第3回「ミスマガジン」でグランプリを受賞して芸能界入りし、翌年2月に「卒業」で歌手デビュー。同年4月スタートのドラマ『スケバン刑事』(フジテレビ)で連続ドラマ初主演を果たし、86年の連続テレビ小説『はね駒』(NHK)ではヒロインを演じた。近年は『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日)、『大奥』(NHK)、『Dr.チョコレート』(日本テレビ)や、現在放送中の『いちばんすきな花』(フジテレビ)などのドラマに出演。11月8日からAmazon オーディブル 『MARVEL‘s ウェストランダーズ ブラック・ウィドウ』が配信され、12月には毎年恒例となっている「Xmas live」を今年もBillboard Liveで開催する。