孔明と同様に、劉備(ディーン・フジオカ)、関羽(本間朋晃)、張飛(真壁刀義)という三国志の登場人物たちの衣装製作にも骨を折ったそう。一番苦戦したというのが、鎧だった。
「孔明と同じように、劉備たちも布を3層4層と重ねて漢服はできたのですが、次に悩んだのが劉備の鎧です。いちから作る予算はないし、台本上、鎧を着ているシーンをゼロにはできない。そんなとき、Babyさんが京劇の衣装を見つけて『これを改造したら鎧になるんじゃないか』とおっしゃるんです。実際には柔らかい素材なので最初は『何言ってるんだろう?』と思ったんですけど(笑)、画面のフィルターを通して見ると、ちゃんと鎧に見えるんですよね」(八尾氏)
「京劇の鎧は劉備の袖にフリンジが付いてるんですけど、ここにフリンジが付いてるんだったらもう何でもありだなと思って(笑)、陸遜(市瀬秀和)の鎧にはスタッズを付けたり、“三国志をよりアートにしてこう”という考えになり、リアリティを求めた再現にはならないようにしました」(Babymix氏)
こだわって作り上げた衣装だけに、その製作費は相当かけているのではないかと想像するが、Babymix氏は「普通だと思います」と断言。「材料の費用というより、手間暇ですね。グラデーションに染めること1つとってもなかなか難しくて、1着あたりのスタッフの労力というのは通常の衣装の3~4倍はかかりました」といい、まさに職人の腕によってあのゴージャス感が生み出されている。
「孔明の衣装は、裾の部分に本物のクジャクの羽根を一つ一つ手縫いで取り付けていたり、画面では分からないところにもこだわりがあるんです。衣装の展示会の話もあるようなので、ぜひそこは見ていただきたいですね」(Babymix氏)とアピールした。
■個性的すぎる衣装に役者たちが躊躇
こだわっているのは、もちろん孔明ら三国志の登場人物たちだけではない。どれも一癖も二癖もあるキャラクターだけに、衣装はそれに負けない強烈な個性を放つものになった。
Babymix氏は「英子とKABE(太人=宮世琉弥)の2人以外は、見ている人が“キャラが濃い人物が出てたな”と思ってもらえればいいと思ったんです。そしてこのドラマはアーティストが出てくるので“アート”にしようと。常々、一番身近なアートはファッションだと思っているのですが、突き詰めていくと人そのものがアートなんではないかとも思っています。ミュージシャンはアーティストと呼ばれることもあるわけで、ミュージシャンやキャラクターたちがアートそのものであるよう見えたらいいな、という思いで作りました」と狙いを明かす。
ただ、あまりに個性的な衣装に、さすがの役者たちも躊躇(ちゅうちょ)する場面があったそう。
「例えば小林役の森山未來さんは、シャツもネクタイも靴まで全身ヒョウ柄の衣装が用意されているのを見て、最初は『小林ってもっと普通の人だよね…』と議論になったりもしました (笑)。それでも、こちらの意図を説明して、最終的に靴下以外全部ヒョウ柄に決まりました」(八尾氏)
「前園ケイジ(関口メンディー)の短パンは、本人がフィッティングルームで『この短さをはくの!?』と驚いてました(笑)。そこで『とりあえずはいてみて、嫌だったら違うのでいいから』と言って、フィッティングルームを出たらみんなが絶賛で、本人も乗っかってくれましたね」(Babymix氏)
一方で、英子とKABEの2人は、どのように決めたのか。
「KABEくんは決めるのに時間がかかりましたね。周りの人たちがすごく個性が強い衣装に決まっていく中で、KABEくんは最初の衣装合わせでは“ちょっと個性が無さすぎる”と思い、悩みました。他の人たちは衣装合わせで、このキャラクターはこうだと、輪郭がはっきり見える手応えがあったのですが、最初のKABEくんの衣装だとそれが見えなくて。何度かやり直しをさせてもらって、今の形が見えたときに“あっ、これです!”と、すごくしっくりいった感じがありました」(八尾氏)
「英子ちゃんを演じる上白石萌歌さんというのが、僕は現場であんなにピュアで良い子を見たことがなかったので、このさわやかな感じを生かしたいと思ったんです。だから、結果的に一番本人らしい感じ、私服に近い見え方にできないかと考えました。原作とは違うかもしれないけど、こっちがいろいろやっちゃうと彼女の良さが死んでしまうと思って、僕の持っている上白石さんの印象がそのままテレビの向こう側に伝わってほしいなという思いがすごくありました」(Babymix氏)