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――ところで今回はヴァンパイアものですが、世界中で吸血鬼の逸話があるとはいえ、「ドラキュラ」のような西洋の形は背景にキリスト教的な価値観があることは否めないと思うんです。その価値観をどう日本の価値観に落とし込んだのでしょう。

ホラー映画というものは神と悪魔という二律背反の存在があり、実はそこでホラー映画って成り立っていたんです。『エクソシスト』や『オーメン』が代表例ですが、日本の場合はどんなに転んでも、『リング』の貞子にしても元は人間なんです。一方で、悪魔という存在はまったく人間とは相容れない、絶対に理解できない存在なのですが、日本の場合は「元人間だから分かるよね」という部分もあると。それが日本的、アジア的ホラーの良さだと思うんですけど、今回はヴァンパイアです。ホラー映画のヴァンパイアの雛形的には、まああれは西洋のものだよねって割と遠い存在で皆さん、見ていたと思うんです。

ですがこの十年来、ハロウィンなどで自分たちが吸血鬼やゾンビなどのコスプレをして能動的に楽しむようになってきた。つまり身近になってきたと。以前、僕は西洋的な吸血鬼やゾンビは日本では広まらないんだろうなと思っていたんですけど、ハロウィンブームによっていよいよ身近になってきたと。ですから少なくとも今回に限っては、そういった価値観どうこうということは意識せずに撮りました。

  • (C)日テレ

■日本の作品が海外にウケるために

――非常に興味深いです。ところで昨今は見逃し配信で見る方も増えてきました。また多くのテレビマンが口をそろえておっしゃるのは「ライバルは今や他局じゃない。サブスクで海外作品が見られている中、海外作品だ」ということ。ハリウッドでも活躍される中田監督にとって日本の作品はどうすれば海外作品に勝てると思われますか?

非常に難しい質問ですが、おそらく最初から海外の人に見せようと思ったら失敗すると思っています。まずは日本人にしっかりと届ける。映画だと日本でしっかり当てる。確かにリアルタイムの数字(視聴率)とともに見逃し配信の数字も評価されるし、サブスクの台頭で海外作品がライバルにはなるのでしょうけど、まず最初に見てもらう日本のお客さんを退屈させないということが大テーマになると思います。

コア層に訴えかける刺激、エモーションのようなものがしっかり描ければ最終的に海外の人にも伝わるって言ったほうがいいのかな。以前、周防正行監督がおっしゃっていたんですが、「僕は日本人向けに美味しいお茶を作るように映画を作りたい」と。日本のお茶を美味しいといって海外の方が飲まれているわけですから、それはすごくまっとうな意見だと思います。

――なるほど。確かに今、日本の干し椎茸が海外でブームというニュースも見たことがあります。まずは日本なんですね。ですがその日本では昨今、コンプライアンスが叫ばれ、制約が多くなっていると思います。ホラーなどは規制の対象になりやすいと思うのですが、この環境に関してはいかがですか?

それはよく言われていることですが、規制というものは昔からあったわけです。映画だと映倫、テレビだと考査。確かに、昔は2時間ドラマで温泉とフルヌードというシーンが放映されていて、それに比べると規制されていると思われるでしょうが、僕は自由になれば自由な表現ができるとは思ってないですね。規制があったほうがこっちも知恵が働くので、規制を逆手にとってギリギリを攻める、そういうものじゃないかと思います。そもそもバイオレンスシーンも本当に人を殺しているわけではないじゃないですか。その中でどうリアルに撮るか。その制約を楽しむみたいな考えです。

――では、大島渚監督の時代のような撮り方とは違ってきているんですかね。

そうかもしれないし、でも僕は(日本初のハードコア・ポルノとしてセンセーショナルな評判を呼んだ大島渚監督作品)『愛のコリーダ』よりも、僕の先輩の田中登監督が撮った『実録 阿部定』のほうが、阿部定ものとしては優れていると思っているんです。『愛のコリーダ』は無修正版も見ましたけど、それだけ見て刺激を受けるかというとそうでもなく、制約がかかっていた田中監督のものを面白いと感じました。

ただし、制約があったほうが面白いものが作れるというわけではありません。そういう場合もあるし、僕としては時代によって変わっていくコンプライアンスを見ながら、良い作品を作っていきたい。本作がそういったドラマになっていたらうれしく思います。

  • 『秘密を持った少年たち』 (C)日テレ

●中田秀夫
1961年生まれ、岡山県出身。映画監督デビュー作『女優霊』(96年)における、斬新な恐怖描写で注目を集める。『リング』(98年)、『リング2』(99年)でJホラーブームを巻き起こし、その後も、『仄暗い水の底から』(02年)などで、ハリウッドからも注目。『ザ・リング2』(05年)でハリウッド進出し、全米映画興行成績1位を獲得した。他の監督作品に『暗殺の街』『ガラスの脳』『サディスティック&マゾヒスティック』『カオス』、『ラストシーン』『怪談』『L change the WorLd』『スマホを落としただけなのに』『貞子』など。今年はNetflixドラマ『THE DAYS』が配信、映画『禁じられた遊び』が公開され、ドラマ『秘密を持った少年たち』が10月6日にスタートする。