世界で活躍するJホラーの巨匠・中田秀夫監督が、初めてヴァンパイアものに挑戦する――日本テレビの深夜ドラマ枠「金曜ドラマDEEP」で、6日からスタートする『秘密を持った少年たち』(毎週金曜24:30~ ※初回は24:40~)。人を襲いその血をすする人ならざる存在「夜行(やこう)」に、望まずしてなってしまった少年と少女の残酷な運命を描く、衝撃的な“エロティクサスペンス”だが、テレビでホラーやスプラッター映画などを放映する番組がほぼ皆無になった今、どのようなホラー作品を作ろうとしているのか。
昨今のコンプライアンス事情やテレビでの「制約」、また原作ありきでオリジナルストーリーが少なくなった現在の映画・ドラマ界についての思いや映画論を、赤裸々に語ってもらった――。
■『トワイライト』で初挑戦のヴァンパイアものを研究
――こうして(インタビュー場所の)撮影スタジオに入ってその天井の暗闇を見ると、中田監督の『女優霊』のあの怖さが胸にこみ上げてきます。
あれは実際にあったエピソードだったらしいんですよ。照明を吊るすバトン(=スタジオの天井にある棒)にブランコみたいに座っている女の子の姿を、その場にいた3人が同時に見たと。その幽霊少女に女優さんが「危ないからそこ降りてらっしゃい」って声をかけたらしいのですが、誰もその顔の中身が記憶にない。それが元になりました。
――その『女優霊』で登場する幽霊が、髪の毛が非常に長くて顔がよく見えない。『リング』の貞子と似たフォルムだなと思ったのですが。
まあやっぱり髪が長いほうが怖いと言いますか(笑)。元々の日本の伝統的な女性の幽霊のイメージでもありますし、古い考えかもしれませんが、髪の長さが女性の情念のようなものを表しやすいといったこともあり、そうなりました。
――なるほど。確かに民俗学的に時代考証がしっかりしていると言われる山田風太郎さんの『忍法帖』シリーズでも女性の髪に宿る情念が描かれていたので、日本人にとって非常に古い記憶として残っているんでしょうね。ところで今回、初めてのヴァンパイアものを撮られたわけですが、どのような作品になっているのでしょうか。
人間ではない存在、「夜行」になってしまった主人公やヒロインの狂おしい関係を描きつつ、その彼らが「404 not found」というバンドで活動をしたり(※彼らもまた「夜行」)、「夜行狩り」と呼ばれるグループとの対立を描く、濃厚でエロティックでエネルギッシュなドラマになっていると思います。
ホラー映画を多数監督してきた私ですが、血を吸って生きながらえるヴァンパイアものは全くやってなかったので、『トワイライト』などアメリカの映画を見て研究しました。クランクインの日に、メインキャストの「龍宮城」のメンバーがライブハウスの楽屋でそろう場面を撮ったのですが、それぞれのクローズアップを撮っても、皆が「画になる」し、初演技ながらにそれぞれ役どころをつかんでお芝居してもらっていたので、ライブ演奏シーンでも楽しめると思います。
■すべてが人気小説、人気漫画に頼ってばかりではマズい
――中田監督は今作の発表にあたり「オリジナルストーリーで映画を作れることが少なくなってきているので、今回は大いにやりがいのある脚本開発でした」と語ってらっしゃっています。私もドラマ制作会社で企画会議などに参加させてもらうことがあるのですが、原作がこれだけ売れているからと数字が重視され、オリジナルストーリーがなかなか通りづらいという印象を抱きます。もちろん全部がそうではないと思うのですが、中田監督はオリジナルストーリーで本作を撮るということにどんな思いを持ちましたか?
そうですね…。脚本家に言わせるとオリジナルを作るときと、原作ものとは苦労の質が違うらしいんですけど、どっちもどっちで、逆に言えばどっちも楽しみがあると。原作があるからラインを守らないといけないけど、その中でどう面白い映像作品にするかっていうこともあるし、オリジナルは自由度がすごく高いけど苦しみは強いわけですよね。漆黒の大海に漕ぎ出すような不安感があると思うんです。要するに原作もののように着地点が見えないんですね。
僕は自分で脚本を書かない人間で、オリジナルこそが醍醐味とまでは言えないんですけど、海外ドラマはオリジナルドラマが多いという現状を見ますと、日本でも、映画もテレビも配信もそうだけど、やっぱりオリジナルをやってほしいなあという気持ちはあります。すべてが人気小説、人気漫画に頼ってばかりじゃマズいだろうと思っています。
――そうですよね。そんな中、中田監督のオリジナルストーリーのドラマが放送されることは非常にうれしいことだと感じます。