そんな様々な植物がフィーチャーされてきたなかで、大団円を迎えたのが最終週「スエコザサ」の第26週だ。モデルとなった牧野博士は94歳で天寿を全うしているだけに、朝ドラとして物語をどこまで描くのかは大いに気になっていたが、制作統括の松川博敬氏も何度か明言を避けてきた。終わってみれば、万太郎と寿恵子夫妻にとって夢であった植物図鑑をコンプリートさせるところがゴールとなったようだ。

「2人が図鑑を完成させることが物語のゴールなのですが、具体的に万太郎を何歳まで書くかということは決め込まずに書いていきました。たとえ万太郎がそのとき何歳であろうと、最終週は任意に始められるという仕掛けが、自分の中で決まっていたからです。最終週はそれこそ植物のように、次の世代に種を残し、また未来で花を咲かせていくということを重要視しました」

長田氏によると、最終週は「継承」というのが大きなキーワードだったそうだ。

「万太郎が、すなわちモデルとした牧野富太郎さんが生涯をかけて集めた標本の点数が40万点以上ありますが、それを資料として活用できるものにしなければならなかったんです。実際に、残された標本を整理・収蔵して、活用できることにしたことで、牧野富太郎コレクションを基に世界各国と標本の交換ができるようになりましたし、今現在も日本の植物分類学の基盤として、その標本から絶滅したものも辿ることができるというすごく大きなソースになっています。富太郎さんの死後、この標本のコレクションが活用され続けているからこそ、富太郎さんは本当の意味で『世界の牧野富太郎博士』となっていったんです」

最終週の126回では、一気に時が流れ、昭和33年の夏の1コマが描かれた。万太郎が残したものを受け取ることになる“後世の人”の1人となる藤平紀子(宮崎あおい ※崎はたつさきが正式表記)が登場。紀子はすでに他界した万太郎の遺品整理を、万太郎の次女・千鶴(松坂慶子)から頼まれる。紀子は万太郎の功績を知っていたからこそ、そこにやってきたようで、千鶴は紀子に亡き父がいかにして植物を愛しつつ、周りの人々に支えられて“槙野博士”になったかを語っていく。

長田氏は「万太郎が図鑑を作る! と言ってずっと頑張り続けられたのは、ただ本人の満足のためではなく、図鑑を含め彼が一生懸命集めた標本のすべてを、次の世代に受け継ぐためでした。だからこそそれを手渡すことをすごく重要視していました」と解説。

■寿恵子がタイトル回収「らんまんですね」

それだけではない。最終週では様々な「継承」が描かれ、多くの伏線が回収されていった。綾(佐久間由衣)は竹雄(志尊淳)とともに自分たちの酒を作り、祖母タキ(松坂慶子)からの想いを受け継いだ。そして最終回において、前回のタキに続き、今度は寿恵子が、『らんまんですね』と、2度目のタイトル回収をするというサプライズが用意されていて、SNSで大きな反響を呼んだ。

また、「名前をつける」「名前を呼ぶ」という行為が折に触れて繰り返されてきた『らんまん』だが、最終回の着地点もこれ以上にない結びとなっていた。

「オープニングから万太郎は出会った植物に『おまんは誰じゃ』と語りかける言葉を何度も何度も繰り返してきています。物語の最後、万太郎は『おまんは誰じゃ』と問いかけた相手に、自分たちが残してきたものを手渡していく。きっと、受け取った次の人もまた自らの花を咲かせ種を残していくんです。こうして人の想いは受け継がれていくのだと、植物と人の生を重ねて結びとしました」

隅々まで丁寧に設計されていた『らんまん』の物語。「雑草という名の草はない」という牧野博士の名言は、令和の時代を生きる私たちにもかなり刺さったが、今後も時代を超えて語り継がれていきそうだ。

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