ついに本日29日に本編最終回を迎えた連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~※土曜は1週間の振り返りほか)。最終週のサブタイトルは、主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の糟糠の妻・寿恵子(浜辺美波)の名前を配した「スエコザサ」で、寿恵子が『らんまん』というタイトルを最終回で回収するという流れに。脚本家の長田育恵氏が「最初から決めていた」という最終週の制作秘話を語った。

  • 『らんまん』最終回の場面写真 左から寿恵子役の浜辺美波、万太郎役の神木隆之介

■「サブタイトルも含めて植物図鑑のようになるといいなと」

『らんまん』の主人公は、高知県出身の植物学者・牧野富太郎さんをモデルにした槙野万太郎で、幕末から明治、大正、昭和と激動の時代に、植物を愛し、その研究に情熱を注いだ万太郎とその妻・寿恵子の波乱万丈な生涯を描いてきた。長田氏は、NHKの連続ドラマ『群青領域』(21)や『旅屋おかえり』(22)などで知られる脚本家だが、長編ドラマを手掛けるのは『らんまん』が初となった。

スエコザサは万太郎が仙台で見つけた新種であり、彼を支え続けた最愛の妻・寿恵子への愛と感謝を込めてつけられたものだ。ちなみに副題をすべて植物にした理由について長田氏は「『らんまん』は万太郎が植物図鑑を作るというお話なので、サブタイトルを植物にすることは初期の段階で決めていました。最終回の放送が終わってすべてを見渡した時、サブタイトルも含めて植物図鑑のようになっているといいなと思ったんです」と言うが、改めて脚本の設計力に感心させられる。

このサブタイトルの付け方は何通りかあったそうだ。まずは、植物と人が強く結びついているもので「万太郎の母・ヒサ(広末涼子)と結びついたバイカオウレンや、寿恵子のスエコザサなど、キャラクターを代表させるものです」と解説。

さらに、綾(佐久間由衣)が幸吉(笠松将)に会いにいく回に登場する「ヤマユリ」や、早川逸馬(宮野真守)の演説会で収監されてしまった万太郎が解放され、帰途で出会う「キツネノカミソリ」などについては「印象的な人との出会いを彩るものとして、植物を使っています」と語る。

ほかにも「ムジナモやキレンゲショウマなど、絶対に外せない牧野博士の業績を表す植物も副題にしています」と言うが、確かにムジナモは万太郎が新種として発表したもので、キレンゲショウマも、タッチの差で田邊教授(要潤)が新種発見者となった植物として登場した。

「『らんまん』は植物学者の話ですが、植物だけを発見しに行く物語にすると、その時点で植物に興味がない視聴者は脱落してしまいます。だから、植物と人間を結びつけていくという構想が最初からありました。植物は業績のアイコンにもなっていますが、その場合もただ業績自体を描くのではなく、人間関係のあやでそこに到達するさまを描いてきました」と、あくまでも『らんまん』の物語は、万太郎たちの人間模様ありきで進めてきたと説明する。

■サブタイトルにしていた花が手に入らず脚本変更も

それ以外の副題として「自由度の高いもの」もあったそうだ。

「こういう文脈で使いたいという目的がはっきりしていて、そこに合うもので、今用意してもらえる植物は何ですか? と植物監修チームに聞いて決めることもあります。例えば、18週で『ヒメスミレ』を選んだのは、小さな子供の目線に咲く花で、長屋などにも普通に咲いている身近な花だったから。ほかにも25週の『ムラサキカタバミ』は、関東大震災という未曽有の被害があった東京で、荒野になった中、それでも咲いている生命力が強い花で、なおかつレプリカが作れるものはなんですか? と聞いて選定したものでした」

植物監修を担当したのは、国立科学博物館・植物研究部所属の田中伸幸先生率いるチームで、撮影スケジュールと開花時期などが合わない植物については、西尾製作所がレプリカを制作。「こちらが文脈的に求めている植物と、植物チームが現在用意できる植物とのせめぎ合いが毎週臨機応変に繰り返されていました」と言うが、一部の脚本がお蔵入りになったこともあるそう。

「例えば第8週の『シロツメクサ』は、実はカガリビソウというシクラメンのような花にしようとしました。牧野富太郎さんが東京に来て、初めてそれを教えてもらったということが自伝に書いてあったので。それでカガリビソウを想定して1週間分をパッケージで書き上げましたが、その花が季節に合わず、手に入らなかったんです。そこで、『今、手に入る植物で、何か選択の余地はありますか?』とお聞きしたら『選択できるのは1種類、シロツメクサだけです』と言われたので、書き上げた1週間分をすべて書き直しました。やはり植物が変わると、その週のテーマも変わるので。今度はシロツメクサが最も生きる文脈は何か? と主題とストーリーを組み立て直しました」