遂に今週で最終回を迎える連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)。高知県出身の植物学者・牧野富太郎さんをモデルにした槙野万太郎(神木隆之介)が主人公の朝ドラということで、地元高知では観光客が爆発的に増え、特に牧野博士ゆかりの観光地が大盛況だという。朝ドラがもたらした経済効果について、高知県観光振興部観光政策課の仙頭裕貴氏に話を聞いた。
■高知県立牧野植物園は対前年比245%、佐川町は対前年比506%
『らんまん』の放送決定が発表されたのは2022年2月2日で、第1回の放送日は2023年4月3日だった。それに先駆け、地元の高知では、県内全域の草花をはじめ、自然、食、歴史などの魅力をアピールしていこうと観光博覧会「牧野博士の新休日~らんまんの舞台・高知」を今年の3月25日よりスタート。ドラマ出演者を高知に招いて、華々しくオープニングを飾った。ちょうど5月8日から新型コロナウイルス感染症が5類に移行したこともあり、この博覧会は観光活性化の起爆剤となった。
博覧会のメインエリアでいうと、牧野博士の名前を冠した「高知県立牧野植物園」では、今年の4月~8月に対前年比245%の観光客を動員し、中でもGWは外にまで行列ができるほど多くの人が押し寄せた。ちなみに日本で人名が入った植物園はここだけで、3000種類以上の植物に出会えるこの植物園は、『らんまん』放送開始後に県外からの来園者も増え、特にファミリー層や女性客が倍増したそうだ。
また、牧野博士の故郷である佐川町では、同4カ月間の動員数は、対前年比506%という驚異的な数字をマーク。佐川は万太郎が幼少期から過ごした町ということで、聖地巡りをする人も多いようだ。武市半平太、坂本龍馬、中岡慎太郎ら志士たちの足跡を辿れる「青山文庫(せいざんぶんこ)」では、「植物学者・牧野富太郎の歩み」という特別展を10月15日まで開催中だ。
そのほか、牧野博士の研究フィールドである越知町(横倉山自然の森博物館)も対前年比179%と大幅アップ。越知町の横倉山には様々な植物が自生していて、まさに植物の宝庫といえる。少年時代の万太郎に「好きに学べ」と背中を押してくれた池田蘭光先生(寺脇康文)と訪れた仁淀川河川敷での名シーンも忘れがたい。
さらに県全域へのインフォメーション機能を果たす高知駅前の「こうち旅広場」も『らんまん』がフィーチャーされている。ここは、高知観光情報発信館「とさてらす」や、人気のフォトスポット「三志士像」などがあるから、高知の旅の起点に最適な場所だ。土産物にも、牧野博士関連のグッズや菓子、酒などがコーナー展開され、休憩スペースでも『らんまん』のポスターや牧野博士の足跡をたどれるパネルが展示されている。
■男性層が多かった観光客 『らんまん』効果で若い層や女性層が増加
同博覧会を統括する仙頭氏は「これまでの高知観光は、坂本龍馬などの志士たちや、カツオのタタキ、宴会を楽しむ“おきゃく”文化などを売りにしてきたので、客層は圧倒的に男性層が多かったと思います。でも、牧野富太郎博士をはじめ、『らんまん』のキャラクターや草花などは女性層から大いに支持され、観光客も若い層や女性層が増えました。今回の取り組みではこれまでとは違う新たなターゲット層の獲得を狙って、チラシや関連パンフレットなどのデザインも柔らかいタッチや色調にするなど戦略的に展開してきました」と語る。
県内では、市町村と連携した草花スポットを充実させつつ、各地で育成された「草花ガイド」が観光客に植物の魅力を伝えていくという取り組みも行われている。さらに各観光スポットへの周遊を促すべく、「デジタルカードラリー」も展開。近隣エリアへの波及効果もあり、もともと人気の観光スポットだった桂浜公園も4月~8月で対前年比132%の集客となった。
ほかにも季節の風物詩である祭りやイベントでも牧野博士に関連する植物たちが会場を彩ってきた。今年の春に行われた「高知城花回廊」では、プロジェクションマッピングで牧野博士や博士の愛した「バイカオウレン」などが映し出され、「春野あじさい街道」では、博士が命名したヒメアジサイなどがお目見えした。
牧野博士は『らんまん』を通して、高知県のこれ以上にない名プレゼンターとなったわけだが、改めて地元のバックアップの大きさをひしひしと感じる。