■子持ちの先輩社員のしわ寄せ受ける後輩の苦悩に反響

――撮影現場も、シェパードキャリアそのままの雰囲気なんですね。今作は、全11話の中でさまざまな転職事情を描いてきました。特に印象に残ってるエピソードはありますか。

なるべく今の時代に沿ったリアルな作品にしたいという思いで、事前にリサーチをしながら制作していきましたが、どう受け止められるだろうとドキドキしたのは、第7話の産休・育休を経て時短で働く子持ちの先輩社員と、そのしわ寄せを受ける後輩社員のエピソードです。

――子育てをされている母親の目線ではなく、その影響を受ける同僚の目線で描かれているのが新鮮でした。

子育てをしている方たちは育児も仕事もすごく一生懸命で、でもその影響で少なからず周りに負担がかかるというのは、どこか本末転倒だなと。誰も悪くないからこそ、その実情を受け止めて職場が変わることを訴えられたらと思いました。どう描けば、子育てをされている方が「迷惑をかけてしまってる」という意識にならず、伝えたいメッセージを届けられるか悩んだのですが、後輩社員が先輩のことを心から尊敬していて、好きで、それでも苦しくて我慢できなかったという思いが丁寧に伝わるように制作したつもりです。

――放送後の反響はいかがでしたか。

ありがたいことに、「本当に分かる」「これ、私のことだ」と共感してくださった方がたくさんいました。子育てをしている側からも「すごく応援されました」という言葉をいただけて。「こっち側の目線の物語が新鮮だ」という感想も目にしたので、ドラマにして良かったなと思えました。

■生き方の“チューニング”する機会の大切さ伝えたい

――先程、今の時代に沿ったリアルな作品にするためにリサーチをしたと仰っていましたが、どんなリサーチをされたのでしょうか。

実際にキャリアアドバイザーの方に取材をしたのですが、転職をされた方のその後についても話を聞いていると、“転職”を選んだ方はやはり人生についてしっかり考えているという意味で、意識が高いなと感じましたね。現場の声から感じたのは、転職したことでキャリアアップをしたのかダウンしたのかは誰にも判断がつかないからこそ、もっと自分本位になっていいんじゃないか、ということ。周りの意見に左右されず、自分の満足度を大切にキャリアを選べるようになるといいなって。第10話でも、家族のために給料アップを目指して転職を考える求職者を描きましたが、必ずしも家族の幸せ=給料アップではないこと、その家族にとって本当の幸せが何かと気づけることが一番大切だという思いを込めました。さらに、それが周りからとやかく言われない世の中になるといいなとすごく思います。

――改めてこの作品全体を通して、視聴者の方に伝えたいことを教えてください。

転職にまつわるドラマではありますが、転職を勧めたいわけではなく、生き方のチューニングをする機会を持っていただければと思っています。見てくださった方が、自分の生き方のこれまでとこれからを考えてみようと思えるきっかけになればうれしいです。周囲の意見や流行に流されず、「自分の人生の選択を自分でする」「自分で自分の幸せをちゃんと選んで勝ち取っていく」ことを感じていただければ。すべて、自分にも言い聞かせているのですが(笑)。

――(笑)。ちなみに萩原さんは転職未経験者なんですよね。

はい。カンテレに新卒入社で、ずっと制作の部署にいます。

――転職をしていないということは、来栖に「あなたの人生、このままでいいんですか?」と聞かれても、「はい」と自信を持って答えられるのでは。

全く言えません(笑)。ずっと悩みもがいているので、初めて原作を読んだときにはハッとさせられることばかりでした。そんな気付きをたくさんの方に届けたいと思ったことも、制作のきっかけの1つですね。

■最終話の見どころは千晴による来栖の面談

――萩原さん自身も、人生のチューニングをする機会となる作品だったんですね。では最後に、25日放送の最終回の見どころを教えてください。

来栖の元同僚がやってきて、思わぬ提案をしたところで第10話は幕を閉じました。これまでたくさんの転職の相談に乗ってきた来栖が、最終回では、自分の転職について考えます。これまで発してきた嘘のない言葉や、仕事に対する信念、 かつての自分が諦めざるを得なかった夢との狭間で揺れる来栖を、ヒロインの千晴がどう手助けをするのか。千晴による来栖の面談が大きな見どころになっています。そして最終的に来栖と千晴それぞれが、自分の人生に対してどんな決断をするのか、ぜひ注目してください。

――第10話では、来栖と千晴が実は過去に出会っていたことが明らかになるという過去が明かされましたね。2人の関係の行方も気になります。

2人の偶然の出会いは、来栖にとって自分の目を覚まさせてくれたとても大きな出来事でした。だからこそ来栖は、恩人である千晴をすごく大切に思っていて、幸せになることを願っています。来栖と千晴は、ベタベタしすぎない距離でありながら、決して仕事のパートナーだけでは終わらないよう近づいていくさまを最終回までじっくり描いたつもりです。恋愛ドラマではないのですが、正反対な2人が一緒に働いて、最終的に同じ方向を向くことで、まるで人生も一緒に歩んでいきそうな気持ちのいい関係になればいいなと。そんな2人の関係がどう決着するのかもぜひご覧ください。

■萩原崇プロデューサー
2005年入社。大阪本社制作を経て、2014年より東京コンテンツセンター制作部へ異動。これまでのプロデュース作品に『シグナル』、『後妻業』、『DIVER‐特殊潜入班‐』、『探偵・由利麟太郎』、『彼女はキレイだった』『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』など。