• 『仮面ライダーガッチャード』でチーフプロデュ―サーを務める東映の湊陽祐氏

――『仮面ライダー』シリーズを育ててきた白倉伸一郎さんをはじめとする先輩プロデューサーの方々が近い場所にいて、アドバイスを与えてくださるのは心強いですね。

正解がわからないままやっていますから、とにかく「僕はこういうことをやりたい」と伝えることから始めています。そうすると「湊がこれをやるためには、前提としてこうでなければ、番組として成立しない」と、白倉が僕の見えていなかった部分まで教えてくれるんです。おそらく現段階で、僕が教えてもらったいろいろなことは、2作目、3作目をやるときにすごく生きてくるんじゃないかと思います。プロデューサーになって最初の段階で、ここまで手取り足取り見てもらえることは、なかなかないです。

最初は塚田、白倉が同時に教えてくれたのですが、両者は方向性がかなり違いますからね。「錬金術」モチーフがまとまったのは塚田がいた打ち合わせで、「学園が舞台」というのがまとまったのは白倉がいた打ち合わせでした。結果的に、今までにない新しい企画の形が見えてきましたし、両先輩には感謝しかありません。最終的には僕の中から発想したものを使っていますが、白倉と塚田がそれを2倍、3倍、5倍にも膨らませてくれたという感じです。

――実写の連続ドラマの場合、役者の人気が高まったり、思わぬ特技を活かす方向へ行ったりと、当初考えていない要因によって当初の構想とは違った場所へ着地するケースがありますよね。『ガッチャード』で湊さんは、最終回に至るまでの流れ、シリーズ構成の部分を意識していますか?

白倉がよく「仮面ライダーは作品ではない。番組である」と話しているのですが、毎回のエピソードは視聴者の方が一週間を生きる活力にしてくれるような、面白い「番組」であるべしという考え方が、僕は好きなんです。ストーリーを最後のところまで細かく決め込みたい気持ちもありますが、絶対に思ったとおりにならないですから、じゃあ第1、2、3話の展開を踏まえて、この先の話をどうしようか……みたいなやり方のほうがうまくいくのではないか?と思い、白倉の考え方に乗っかって(笑)、毎回毎回、こんな面白いことがあるぞ!というアイデアを考えながら作っていくようにしています。

  • 仮面ライダーガッチャード

――第1話のオンエアをご覧になったとき、湊さんが感じた手ごたえはいかがでしたか。

それはもう、田崎(竜太)監督(田崎監督の「崎」は立つ崎が正式表記)ありがとうございます!のひと言でした。僕が「こういうことをやってみたい」と意見を投げたら、監督は「だったらこういう見せ方はどうだろう」と、ビジュアルとしてどう伝えたら面白くなるのかを、わかりやすく形にしてくださいます。ケミーを「グレムリン」のような存在だと定義づけてくれたのも、田崎監督のアイデアです。ケミー自体は善でも悪でもないが、扱う人間次第で敵にも味方にもなるという発想が『ガッチャード』の世界観を豊かにしてくれました。

――第1話の脚本は長谷川圭一さんと内田裕基さんでした。湊さんは『ガッチャード』を明るく楽しい作風にしたいとおっしゃっていましたが、長谷川さんの持ち味としては、どちらかというとシリアスな展開を好まれるのではないですか。

僕も長谷川さんの書かれた『ウルトラマンネクサス』(2004年)が大好きですから、おっしゃることもよくわかります(笑)。長谷川さんはウルトラマン出身ということもあって、重厚なドラマを好まれますね。そういうとき、脚本打ち合わせで僕と内田さんが長谷川さんを必死で止めるんです(笑)。ただし、ここは重くなりますから……と脚本からダークな要素をそぎ落としたとしても、長谷川さんの味はしっかり残っているのが凄いんです。長谷川さん、内田さんの卓越したアイデアをもとにして、『ガッチャード』に最適なストーリーは何か、鉱脈を探しながら作業をしています。

――ケミーを人間の悪意と融合させ、怪人「マルガム」に変える「冥黒の三姉妹」の存在感も出色でした。三姉妹の実年齢と設定年齢がバラバラというのも、強いインパクトがありました。

冥黒の三姉妹の設定は長谷川さんのアイデアです。企画段階のとき、ケミーが解き放たれている世界観だから、特に敵対する組織は必要ないんじゃないかと思っていたんです。それこそ、ナイルの悪魔を封印するためにヒロインが活躍する『不思議少女ナイルなトトメス』(91年)みたいな作品がありましたから。でもやっぱり、ライダーが倒すべき「目標」のような存在がほしいということになり、宝太郎たちの対極にある「悪い錬金術師」の三姉妹が生まれました。彼女たちのすべてを僕が知っているわけではありません。おそらく長谷川さんの頭の中にあるのだと思いますが、それをすべて表に出すと『ガッチャード』が闇に包まれちゃうんじゃないかと(笑)。もちろん「仮面ライダー」なので、ハードでシリアスな面があってもいいと思いますが、番組全体としては明るく楽しいトーンを崩さず、そこにスパイスとして冥黒の三姉妹がハマればいいなと考えています。

――宝太郎役の本島純政さんは、発表会見のときも終始元気で明るく、何事にも動じないところが宝太郎のイメージにピッタリですね。

オーディションで出会った彼は、いくつも「足りていない」ところがあったけど、足りてなさを補って余りある「前を向く姿勢」が決め手となりました。彼自身が持つポジティブさ、メンタリティの強さに惚れました。本島くんはとてもマジメで、人の話を聞くときはマメにメモを取っていたり、台本に細かく書き込みをしたり、お芝居にのめりこんでいるのが周りで見ていてよくわかります。1年後、まったく顔つきが違った成長ぶりが見られるんじゃないかと、期待をしています。

  • 『仮面ライダーガッチャード』主演の本島純政

――フレッシュな若手俳優が活躍する中、石丸幹二さん、南野陽子さんといったベテラン俳優の方たちがしっかり脇を固められていて、安心感をもたらしてくれます。

石丸さんも南野さんも、すばらしい方です。石丸さんは『仮面ライダー』(1971年)から観ていた方で、ライダーカード(カルビー仮面ライダースナック)にはとても思い入れが強いとおっしゃっていましたし、南野さんは『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』(1985年)でブレイクし「私は東映出身」というプライドをお持ちでした。お2人とも『ガッチャード』に真剣、前向きに取り組まれていますから、少しの出番で終わらせるわけにはいかないぞ……と思っています。今後の石丸さん、南野さんの活躍を楽しみにしていてください。

――錬金アカデミーと富良州高校の両方で宝太郎を見守る教師ミナト(演:熊木陸斗)は白倉さんによるネーミングだとうかがいました。主人公の成長をうながす重要な役どころであるだけに、湊さんのお名前をそこに当てこんだのではないかと思いますが、どうでしょうか。

いや~、仮でネーミングをして、そのまま馴染んじゃったから、って話もありますからね(笑)。ミナトの役どころは、主人公が錬金術やケミーについて何も知らない「素人」なので、近くにはプロフェッショナルの人物が必要だな、という考えから生まれました。彼にも実現できなかった思いというものがあり、それを託す相手として宝太郎がいるという、絶妙な距離感を持ったキャラクターにしています。ミナトがことさら物語を大きく動かすことはないかもしれませんが、宝太郎を見守り、支える大切なキャラクターです。熊木さんは「自分もライダーに変身したい」と言っているそうですが、それは絶対にありません! でもあんまりこういうことを言うと、これが今後の「ミナト変身」へのフリだと思われるかもしれないなあ(笑)。

  • 『仮面ライダーガッチャード』でミナトを演じる熊木陸斗は変身を熱望

――改めて、湊さんが少年時代に観ていた『仮面ライダー』シリーズにチーフプロデューサーとして携わったことへの思いを聞かせてください。

子どものころから「仮面ライダーやスーパー戦隊を作っている人=プロデューサーってすごいな」と憧れを抱いていました。一時期は役者を目指していたこともあったのですが、表舞台に立つより製作全般をこなすことに魅力を感じはじめ、こっちのほうが向いているかなと思うようになったんです。実際にやってみてわかったのは、プロデューサーとは「いろんな人にうまく仕事をお願いできる力」が重要なんだなってことです。つまり「お願い力」です(笑)。憧れのプロデューサーになることができたと喜ぶよりは、これまでただ「凄いな~」と思っていた人たちも、実は今の僕と同じようにいろいろ考えながら番組を作っていたんだなと痛感しました。

――これから1年間『仮面ライダーガッチャード』をどんな作品にしていきたいか、の抱負をぜひお願いします。

昨年『ドンブラザーズ』で白倉伸一郎+井上敏樹(脚本)という「神々」の仕事を間近で観続けてきて印象に残ったのは、脚本打ち合わせで方向性に迷ったとき「こっちのほうがよさそうな匂いがする」と言ってたことなんです。2人とも、野獣のカンで仕事をしていた(笑)。僕はそういったところに「鉱脈」があるんじゃないかと考えています。『ガッチャード』を作る際、これからいくつも「どっちに進めばいいのか」という分岐点に出くわすと思いますが、そのつど「おいしそうな匂い」のする方向へ進んでいけば、きっと1年たったとき、おいしい料理でいっぱいになっているのではないか。これが自分に合うやり方なのかどうか、まずは1年間やってみてからでないとわかりませんが、『ガッチャード』はまずはそういう気構えで取り組んでいきたいと思います。仮面ライダーファンのみなさんには、絶対にお楽しみいただけるものをお届けしますので、1年間熱い応援をしてくださるよう、よろしくお願いいたします!

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