■書は幼い頃から身近なものでした

――おしのさんは現在、書道家としても活動されていますよね。何か活動を始めるきっかけがあったのですか?

祖母が書家だったので、書は幼い頃から身近なものでした。祖母の家にいくと、墨で書かれた祖母の格言や詩文、適当な紙に書いたようなものまで、家のあらゆるところに書がありました。曾祖父も詩を書く人だったので、少しそういう家系なのかもしれません。

一方、昔の私にとって書道は自ら進んでやっていたものではなく、習い事の一つとして“通わされている”ようなものでした(笑)。小学生の頃は、クラシックバレエ、塾、スイミング、バドミントン等と、学校が終わると習い事から習い事へはしごする生活をしていたのですが、習字は足が痺れますし、幼い私にとっては「またこの時間が来ちゃった……」って感じでした。

――小さい頃は仕方ないですよね(笑)。ということは、書道はずっと続けていたわけではないのですか?

そうですね。長い間、書道には触れていませんでした。

――それで師範まで取れるなんて、すごいですね……!

本当にたくさん書きました! 毎日数えきれない半紙を使うので、燃えるゴミが絶えません。最初は全然上手く書けなかったので、気づけば時間を忘れて鳥の声が聞こえてくるなんて事も多々……(笑)。とにかく夢中になって書いて、昇級していくと、やっぱり楽しいじゃないですか。そういう達成感もあって、行書と隷書、2度師範を取得しました。

おしの沙羅

――元々字を書くことが好きだったのですか?

私は歌詞や詩集など「言葉」が好きでした。祖母の影響が強いのかもしれません。今も近代詩文と言って、詩や現代文を書作品で表現するものを書けるようになりたくて学んでます。ある日、その言葉を書いてみたいと不意に思って。でも、一人暮らしの家に習字道具はないし、買いそろえるくらいなら書道教室にでも行ってみようかなと思い、次の日、家の近所にある教室に伺ったんですよね。

――言葉が好き、というのは納得です。普段使われている言葉や表現もキレイだなと思っていました。

ただの“ロマンチスト野郎”なのかもしれません(笑)。

■雅号「雨楽」の由来

――“ロマンチスト野郎”(笑)! 雅号「雨楽」の由来についても教えていただけますか?

雨の日も楽しむ。雨の日こそ気楽に、です。雨は世の中を洗い流してくれる、時に味方になってくれるような気がするんですよね。嫌われがちだけど、実はとても神聖なものだなって。あとは、「楽(らく)」って字が好きで、書作品でもよく書くんです。私、「不幸」の反対って、「幸せ」ではなく「楽」なんじゃないかと思うんですよ。幸せはあればあるだけうれしくて、上限がないじゃないですか。上限のないものを追い求め続けることは、果たして幸せなのかと思ったりします。

でも、「楽」には人それぞれ上限も下限もあります。自分にとっての「楽」を追い求めることが良い生き方なのかなと。怠惰ということではなく、自分が大きく息を吸えるような、自分の存在が楽でいられるそれぞれの場所。私は女優としても、書道家としても駆け出しですが「いたい場所にいられる」という意味では、今ある意味とても楽といえるかもしれません。

居場所が分からない時、どこへ向かえば良いか分からない時、心と体が矛盾している時。それらが私にとっては最も苦しいことかなって思います。今の私には安定などないし、決してうまくいっているわけではないけれど、自分の選んだ道を少しずつだけど歩んでる。それだけで「自分を生きている」と感じられてはいます。自分の中にはそういう感覚が軸としてあるので「雨楽」と付けました。

――おしのさんが今年の春に開催した初個展の『うららか』というタイトルも素敵です。

ありがとうございます! 自分が書道家としての活動を始めたということで、「春の訪れ」を感じられるタイトルにしました。時期も、これから春が訪れる頃だったので、大人の卒業式、そして始業式をイメージして、作品と空間づくりに挑戦をしてみました。

  • おしの沙羅

■「忍野さら」に慣れ親しんでもらい感謝しています

――9月に開催される2回目の個展名は『浮-BUOY-』ですが、このタイトルにはどのような意味が込められているんですか?

私、流れてるものが好きでよく眺めるんです。川の水面や波打つ海や、空に浮かぶ雲……あっ、“ロマンチスト野郎”だから(笑)。

――確かに、ロマンチストな人は空が好きなイメージがあるかもしれません(笑)

空を見ている時に思いました。雲って風の流れに乗って存在していて、変わろうとせずとも自然に形が変わり続けていますよね。私たち人間もそのような意識を持って生きてみたら素敵なんじゃないかなと。

自らドラマを生み出そうとせずとも、人生にドラマは生まれる。私たちは波を生きてるから。良いことがあれば悪いこともある。朝がくれば夜も来る。ヤケ酒しても陽は昇る(笑)。「無常」という言葉がありますが、この世の全てのものは変わり続けてる。どれだけ閉鎖的な環境にいる人でも、細胞は常に老い続けていますし、変わらないものはこの世に一つもないということです。

そんな世の中の無常に身を委ねる「勇気」と、流れに身を委ねて形を変えながらも、決して消え去りはしない「自信」を持ちながら、悠々と大胆に生きていけたらなと思いました。自分を大きくも小さくも見せないでいられる、今の自分の足るを知るということ。そんな人は堂々としていてとても素敵だと感じます。そんなこんなの自分の気持ちや考え方も含め『浮-BUOY-』とつけました。

――雅号にも個展のタイトルにも、言葉を大切にするおしのさんの性格や、その時々のおしのさんの姿が現れているんですね。名前でいいますと、今年の9月に「忍野さら」から「おしの沙羅」へと改名されました。長年連れ添った芸名と別れを告げて、心機一転する今のお気持ちを最後に教えていただけますか?

お仕事でお世話になっている方から助言を頂いて改名することとなりました。難しい事情とか、占い師に言われたとかではありません(笑)。何かを追い求めると、見える景色が変わっていって、その度に出逢いも、自分自身も自然と変化していく中で、今、名前が変わるという思いがけないことが、なぜかすんなりと私の中へ入ってきました。10年くらい「忍野さら」に慣れ親しんでもらい感謝しています。「おしの沙羅」として新しい環境を実感していけば、よりワクワクするんじゃないかなと思います。

■プロフィール
おしの沙羅
1995年6月3日生まれ。東京都出身。グラビアアイドルとして人気を博し、2017年は週刊誌や少年誌など20誌以上の雑誌で表紙を飾った。女優としての出演作は、『絶対正義』(20/東海テレビ)『華麗なる一族』(21 / WOWOW)、『今どきの若いモンは』(22 / WOWOW)、『何かおかしい2』(23 / テレビ東京系)など。9月28日〜10月1日、2nd書展『浮-BUOY-』(入場無料)を、東京・ギャラリー銀座にて開催する。