脚本を担当するのは、峰尾賢人氏と我人祥太氏の2人。小原氏がプロデューサーを務めた映画『とんかつDJアゲ太郎』(20年)で脚本協力で入っていた縁でオファーした峰尾氏がストーリー全体を書き、元芸人の我人氏はバラエティとのつなぎの部分や、番組それぞれでの松下の絡ませ方のアイデアを組み込んでいった。

監督は、映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18年)を見て気になっていたという湯浅弘章氏。テレ東や読売テレビの深夜ドラマを多く手がけており、「幅広くできる方という印象があったのですが、テレビ東京の浅野(太プロデューサー)さんから『すごくバランスが取れてオールマイティーですよ』という話も聞いたので、ご一緒してみようと思いました」と、ドラマとバラエティが掛け合わさる今作にうってつけの起用となった。

脚本は、参加するバラエティ番組が決まった上で作っていくのではなく、なんと同時並行の作業。「ドラマの核となる話は作ってあるのですが、その中で『予定してた番組、ちょっと変わっちゃいました』ということもありながら(笑)。ドラマのストーリーを作りながら、実際の番組にどうコミットしていくかというところはみんな初めての経験だったので、脚本家の方たちも、監督も混乱していました(笑)」と、前例のない脚本づくりになった。

それだけに、「台本を作ってるときも、撮影しているときも、どうなるのか分からないので、みんなでその場で柔軟に対応してできたドラマだと思っています。作り上げられたストーリーなんですが、生放送的な要素で撮影が進んでいった印象もあるので、先が読めない、見たことのないドラマになっていると思います」と見どころを語る。

  • 松下洸平

TVerオリジナル作品ということで編集で意識しているのは、スマホの小さな画面で見ることを想定し、映像は明るく、寄りショットを多用するということ。「制作者はどうしても質感を求めて黒を占めがちにした陰影の効いた画にしたいと思うのですが、スマホを縦にして画面上部の小さな画角で見る方が多いので、それでも見やすいものにしています」と心がけた。

また、ドラマのシリアスなシーンと、バラエティのシーンの温度差があまりにも大きいため、「音楽の付け方1つとっても正解が分からないので、そこのバランスが非常に難しいなと思いながら編集しています」と吐露している

■Netflixの成長も意識「まだまだ伸ばしていかないと」

普段はライバル同士の各局から出向してきたメンバーらが集まるTVerでの仕事は、「それぞれ育ってきた環境が違うので、考え方も違ってぶつかることもありますが、最終的にはみんなテレビコンテンツが好きなんだという感じがすごくするんです。もちろん、テレビの危機感みたいなものや、出身局のことも考えながらも、いかにTVerでテレビのコンテンツを盛り上げて伸ばしていくかというところに向かってみんなで動いている感じがあって、すごくいい雰囲気です」と充実の様子。

再生回数もアプリのダウンロード数も右肩上がりだが、「テレビの視聴者数が6,000万人と言われる中で、まだその約半分程度なので、もっともっと伸ばしていかないといけないと感じています」という意識の上で、「Netflixが日本に来た頃は、各テレビ局より全然低い売上だったのが、この15年ぐらいで世界も含めて4兆円という産業に化けているので、やっぱりそこに向かっていかなければというのは、現場もテレビ局も見据えていると思います」と、高い志で挑んでいる。

  • 小原一隆氏

●小原一隆
2000年にフジテレビジョン入社。主にドラマ・映画の制作を担当し、連続ドラマでは『鍵のかかった部屋』『失恋ショコラティエ』『残念な夫。』、映画では『ひるなかの流星』『とんかつDJアゲ太郎』『ラジエーションハウス』など、数々の作品をプロデュース。21年からTVerへ出向し、特集企画やオリジナルコンテンツを立案。9月5日から配信されている在京民放5局の制作協力によるTVer初のオリジナルドラマ『潜入捜査官 松下洸平』を企画・プロデュースする。