■松村北斗は「いろんな色に染まれる」西畑大吾は「とにかく勘が良い」

――W主演を務める松村さん、西畑さんの俳優としての魅力はどんなところに感じていますか。

松村さんはどんな役でも引き受けてくれるんだろうなという印象を持ちました。今回のようにちょっと面白くてかっこいい役どころもそうだし、昭和っぽいレトロな香りのする男性とか、いろんな色に染まれるタイプの俳優だと思うので、違う姿も見てみたくなりますよね。将来的に違う作品で組めるとしたら、もっと破綻したヤバい役も似合うんじゃないかなと想像しています。西畑くんはとにかく勘が良くて、自分で役を咀嚼して現場に臨むタイプの大変優秀な俳優です。彼とも機会があればまたご一緒したいですが、僕が一番面白いと思っているのは鬼太郎(笑)。あの顔立ちを活かした役どころは、今後も彼の前に現れるだろうし、今回のようなペアの片割れというのも活かし方の1つだけど、シュールで面白い存在感を出せる人なので将来に期待しています。

――松村さんと西畑さんの共通点や違いを教えてください。

共通点は、まずとても真面目なところ。尊敬に値する真面目さを持っています。役者といっても人間なので、今のこの時期だと暑さによる体調の乱れがあってもおかしくないのですが、2人ともそれをおくびにも出さないんです。少し顔に出るときもあるんだけど(笑)、撮る分には分からないレベルで。実際は汗びっしょりだったりとキツい状況でも波長が乱れず、役者に求められるタフさを十分に持ち合わせている2人だと感じています。ちなみに、僕は長い間ジャニーズ事務所の皆さんとお仕事をさせていただいてますが、ほぼ皆さん共通して真面目でタフなんですよね。何十ページもある台本でもセリフがしっかりと入っていて。2人も役者としての立場をわきまえていて、ドラマチームの要求に応えつつ、それ以上の何かを残して帰るという点で、共通して素晴らしい才能をお持ちだといえます。

違いというと、見た目のビジュアルが全然違いますよね。かっこいい顔をした松村くんが変わったことをやると面白いし、かわいい顔をした西畑くんがかっこいいことを言うと魅力的。その記号的なわかりやすさをドラマにハメることで、とても面白いバディになりました。

――今作のほかにも、『トリック』(テレビ朝日)、『ケイゾク』(TBS)、『SPEC』(TBS)とバディものをたくさん手掛けてきた堤監督ですが、バディものを制作するうえで大切にしていることは何ですか。

キャラクターの違う2人が物理的にも精神的にも旅をして成長し、あるときはボケとツッコミの関係が逆転するような自由度をもたせられると面白いと思っています。今回は不可能犯罪のトリック=「HOW」を解明する倒理、動機や理由=「WHY」を読み解く氷雨、と役割が分かれながらも、時々「それは俺の領分だろ」と言いながら、トリック専門なのに動機のほうへ踏み込んだり、その逆もあったりという変化と反転があるのが面白くて、バディものの醍醐味を感じました。その設定を思いつかれた原作が素晴らしいですし、さらに原作にはない部分までキャラ作りをされた、脚本・浜田秀哉先生の洞察力は見事なものです。

――そんな倒理&氷雨バディを撮っていて面白かったところを教えてください。

あまり空気を読まない倒理が、机に足を乗せたり、こんな事件面白くないと言ったり粗暴なことをして、常識的な氷雨が「足乗せるな!」「言い方!」とツッコむところは、撮っていて面白かったですね。その色彩は話に応じて微妙に変化してきましたが、この先には大どんでん返しも控えています。最初に設定したキャラが発展し、変化し、「そういうことだったのか」と意味がわかる、その最後も含めてこのバディを楽しんでいただきたいです。

  • テレビ朝日提供

■第6話の難解な撮影が巻きで終わり「おみごと!」

――9月2日に放送される6話は1話完結型とのことですが、どんな物語なのでしょうか。

薬子が発するたった一言の謎めいたワードから、倒理らが大きな事件を推理していくというストーリーになっています。雑談なのか、リアルな事件なのか分からないまま探偵事務所の中で盛り上がっていく、まるで舞台のような大変難しい会話劇に挑戦しました。原作を読んだときから「面白いな」と目をつけていて、プロデューサーの皆様にも「この話をドラマでやるなら僕が撮ります!」と立候補していたので、念願叶ってとても幸せでした。

ロジックの飛躍が結構激しいのと、そもそも会話だけで展開していくドラマってすごく難しいんです。それを松村くんは、ほぼほぼ1日で、それどころか2時間巻きで見事にやってのけてしまいました。撮り終わったときには「お疲れ様」じゃなく「おみごと!」と声が出るほどで、びっくりしましたね。探偵事務所で話が進んでいる裏では、氷雨がある事件を目撃し、監視を始めるのですが、スマホからその会話劇に参加して自分なりの推理を進めていくという、それもまためちゃくちゃ面白い構成なんです。別場所で別日に撮っているのに、あたかもスマホの電波で繋がった2つのシーンが同時に進んでいくように見える、面白いドラマに仕上がったと思います。本多劇場あたりで生の舞台・推理劇として構成することもできる、そんな会話劇になったなと。1話は1時間、2話3話、4話5話と2話構成できて、6話は変化球として非常に見やすい1話完結型になっています。“倒理・松村”と、“氷雨・西畑”の卓越した技術が刻まれた30分になっているので、ぜひご覧いただきたいです。

■腕を試された『ノキドア』は一生の思い出に

――最後に、堤監督が今作を手掛けて感じたこと、得たものを教えてください。

僕は1話、6話、最終話を担当して、3種類の作品作りができました。1話はキャラクター紹介と物語の始まりを描きましたが、「ドラマの基本をしっかり作る」ことができたのは久しぶりという感覚でして。変化球でいろいろな種類のドラマを作ってきましたが、大昔には日テレの土曜9時枠でドラマの基本を作るお仕事をたくさんやらせていただいていたので、60代になってまたその原点に戻ることができました。「まだできるじゃん、俺」と思わせてくれる1話でした。

そして後輩たちが2話3話、4話5話と、軽妙に、かつ原理主義的に作品を引き継いでくれ、6話では、会話のみで成立するミステリーという変化球に挑戦できました。撮影が2時間巻いたと言いましたが、短い時間で面白いものを撮るのがプロの仕事だと思っているので、内容はもちろんですが、制作面でも自信を持っています。

最終話も30分の1話完結型で、これまで振りに振った、撒きに撒き散らした倒理、氷雨、美影、穿地4人の謎を回収するラストになっています。過去との対話が出てきて、4人が決着をつける物語なのですが、1話とは全く別の、異質なドラマを作っているような感覚でした。1クールのドラマで3種類のタイプのドラマを作ることができて本当に光栄です。こんなに暑い夏に、こんな初老のおじいちゃんが(笑)、腕を試されるような作品を手掛けられたことは、一生の思い出になると思います。

■堤幸彦監督
1955年11月3日生まれ、愛知県出身。ドラマ『金田一少年の事件簿』シリーズ(95年~97年)、『ケイゾク』(99年)、『池袋ウエストゲートパーク』(00年)、『TRICK』シリーズ(00年~14年)、『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』シリーズ(10年~)など数々のヒット作や、20周年ツアー「ARASHI Anniversary Tour 5×20」のライブフィルム『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』(21年)を手がけ、映画監督、舞台演出家としても活躍する。2023年はドラマ『Get Ready!』の監督も務めた。

■テレビ朝日系オシドラサタデー『ノッキンオン・ロックドドア』毎週土曜(23:00~)
松村北斗(SixTONES)、西畑大吾(なにわ男子)、石橋静河、畑芽育、駒木根隆介、早乙女太一、角田晃広、渡部篤郎ほかが出演中。2日放送の第6話では、薬子は登校中にすれ違った会社員風の男(泉拓磨)がスマホで通話中の相手に「10円玉が少なすぎる。あと5枚は必要だ」と言っていたことが、朝からずっと引っかかっていた。この話を聞いた倒理は、張り込みについて通話中だった氷雨に「どういう意味か読み解いてやろうぜ」と持ちかけ、穿地、神保も交えて謎解きを始めることに。男はなぜ10円玉を必要としていたのか。些細な言い回しなどをヒントに推理を重ねていく面々。この推理合戦はやがて、“とんでもない事態”に向かって加速していく。
『ノキドア』は、現在TVerで1・2・3・5話が見逃し配信中。