こうした事象は、何もSNSに限らない。好奇心を煽るようなビジネスは、ネットが発達する以前から週刊誌によって行われており、今ではネットニュースなどによって無料で閲覧、拡散できるようにもなった。結果、ネットニュースが燃料を投下し続け、炎上の連鎖を生んでいることを我々メディアも忘れてはならない。
「このようなサイクルを断ち切るためにこそ、国民全員が誹謗中傷・炎上に対して毅然(きぜん)とした態度を示し、誹謗中傷につながる媒体の閲覧や購入をやめたり、企業がそのような媒体に広告を出さないなどの対応をしていく必要があると感じます。また事実上、ネットニュースはそれを転載するニュースポータルサイトによって世の中に広がっていきますが、その責任をどう考えるかという点は、まだしっかり議論が尽くされていないのが現状です」
これに、いわゆる「こたつ記事」や「まとめサイト」が拍車をかける。「まとめサイトでは、しっかり裏が取れていない情報も、ただそのまま掲載・まとめられるため、誤った情報が広がっていくという現象も起こっています。ですが拡散もまとめも、元ネタとなる報道記事のほうにも問題がある場合もあると思います」
その上で、山本弁護士はこう提言する。
「表現の自由は、世の中を良くするためにあるものだと思います。例えば、俳優さんの演技がこういった観点から上手ではないと感じる、というのは批判ですが、『この人キモい』だけだと人格を否定して終わるんですね。それで俳優さんのやる気が出るわけがない。ぜひ意識してもらいたいのは、SNSもリアルの世界であっても“自由の範囲は変わらない”ということです」
■リテラシーの低さの要因は「教育の問題」
こうしたリテラシーが低いことに関しては、「私見ですが、急激なネットの発達に人間の教育や心の部分が追いついていけなかったからかもしれない」と話す。
「よく、“それじゃあ何も発言できなくなる”という方もいらっしゃるんですけど、正当な批判は許されているんです。やり方がアウトだからダメなだけで、セーフの発言は残されている。つまり“正当な批判”の仕方を学ぶこと、それを使えるようにならなければいけない。これには教育の問題がある」
簡単に言えば、例えば万引きをしたら捕まるということは広く認知されている。それは親からそう教育されているからだ。だがネットの場合は、子どものほうが親よりもSNSに精通して積極的に利用しており、親が子どもに教育できない面がある。
ゆえに山本弁護士は「親世代も講演・研修などを通じて学ぶ機会を持ってもらう必要がある。各企業内でも積極的にSNSなどに関する研修を行うべき」と提言。昨今はネットを通じたリベンジポルノ・性被害の問題なども増えてきているが、それも親世代がネットについて学ぶことで、子どもたちがそうした被害に遭わないよう日々の生活から気をつけるよう教育することができる。
「自分の中の価値観や考え方を無理に根本から変える必要はありません。ですが、それが果たして世の中の誰かを傷つけるものではないかどうか、自分の“正義”は本当に“正義”なのか、今一度考える局面にきているのではないでしょうか」
■「ネットは何を言ってもいい場所」はもう通用しない
SNSは迷子の犬を探す際に役立つなど、使い方によっては非常に便利なツール。要は使い方が問題で、利用者が法的観点を含めSNSの正しい知識や相手の気持ちを考える力、自律心を持って利用できるようになれば、より良い世界になる。「そのためには罰という抑止力だけでなく、大人も含めSNSのリテラシー教育が大切だと思います」と力を込める。
「表現の自由」はある。だがそれはリアルと同じで、人を傷つけるものであってはならない。また誹謗中傷への規制が厳しくなったとしても、正しい批判の仕方をすれば問題ないわけで「言論弾圧」などにはつながらない。
SNSでガス抜きをしたい人もいるだろう。だがその場合も、「法で許された」「建設的な」発言を心がけるべきであり、そして「自分の正義」から相手の人格否定をすべきではない。リアルでもネットでも犯罪は犯罪。「ネットだから何を言っても許される」「何を言ってもいい場所」という考え方はもう通用しないことを、しっかり認識すべきではないか。
●山本健太
レイ法律事務所所属。スポーツ法務(誹謗中傷問題、スポーツ・ハラスメント問題などを含む)、著名人・企業のメディア対応・炎上案件、ネットトラブル(誹謗中傷、リベンジポルノ等を含む)などを担当。子ども・保護者、スポーツ選手、インフルエンサーなど事業者向けのネットリテラシー教育研修なども多く行う。