今作の大きな見どころと言えばやはり、主演である若村麻由美のキャラクターづくりだろう。平凡な主婦の顔、なりすました言わば“ウソの女優”の顔、そして失踪した本物の大女優の顔と、ビジュアルから話し方、所作に至るまで、大胆でありながら繊細に難しいキャラクターの演じ分けを見事にこなしている。
これまでの若村と言えば、『白い巨塔』(03~04年、フジテレビ)での財前教授夫人役など、キリッとカッコいい女性やちょっと悪そうな役柄を演じるイメージがあったが、今作では愛嬌たっぷりでかわいらしく、コメディーとの相性も光っている。
当初予定していた鈴木京香に代わって緊急登板という形になったが、「若村さんとは今回初めてなんですけど、『老後の資金がありません!』(21年公開)を見たときに、この方のコメディーは面白い!って思ったんです。あと、吹き替えを担当された『アリーmy Love』(米ドラマ)が僕は大好きで、アリーの声って、声自体が半笑いというか、コメディーに合うなと思っていたんです。若村さんもコメディーに挑戦したいと言っていたので今回ご一緒できてよかったですし、コメディエンヌとして実力を発揮されていると思います」と信頼を寄せた。
■時任勇気が意外な変化「あんなに面白い役になるとは」
脇を固める個性豊かなキャラクターたちの見せ方も面白い。主人公が大きな演技、表情の変化を見せる中、その戸惑いをより浮かび上がらせるかのように、周囲の人物は実に落ち着いた演技を見せている。
「大きなウソがある物語で、主人公が一番コメディーを背負っていくわけじゃないですか。だから、周りの共演者が上手いというのはコメディーの鉄則なんです。それを分かって西村(まさ彦)さん(※失踪した女優が所属する芸能事務所の副社長)も含め、大げさではない落ち着いた演技をしてくださっているんだと思います」
鈴木氏が最も意外なキャラクターになったと話すのは、主人公を芸能界へと引きずり込むマネージャー・西條を演じる時任勇気。「彼は『HiGH & LOW THE WORST X』(22年公開)でとんでもない悪役を演じていたので、最初は『メン・イン・ブラック』のような、一番悪役に見える役のつもりだったんです。だけど、あんなに面白い役になるとは思ってなくて(笑)、監督がこの役はとにかくかわいく見えるようにしようと言って、愛すべきダメ男を作ってくれましたね」と、良い方向に変化したそうだ。
大胆な設定を用いながらも、ドラマ全体として落ち着きのある柔らかな印象を持たせてくれるのが今作の特徴だが、それは小田和正が歌う主題歌「what's your message ?」のおかげだろう。「小田さんは脚本を最後まで読んで曲を書いてくれました。1話や2話を見た段階では分からないかもしれませんが、トータル全体で見ると主題歌がよりドラマに合ってくると思いますよ」という。
■「伏線は残さず回収される予定です」
今後の見どころについて聞いてみると、「徐々にサスペンスの部分が動き始めます。これまで何の事件か分からなかった“過重労働問題”がどうもそれだけじゃなくて、もうちょっと大きな事件に関わってるんじゃないか?という流れが出てきますし、大きなうねりが必ず1個は出てくるので、そこを楽しみにしていただきたいと思います。あとは、いろんな伏線が張られているので、それが徐々に回収されていきます。伏線は残さず回収される予定ですよ」と予告した。
主人公の“なりすまし”を楽しむのはもちろんだが、冷めきった夫婦の関係性や、パート先での人間模様、一人息子と仲良くなった女性起業家との交流など、サブストーリーも興味を引くものばかりで、それらが結末へ向けてどうつながっていくのかも楽しみだ。
特に、“芸能界の裏側”の描写については、その実情を最も知っていると言えるテレビドラマのプロデューサーが脚本を書いているだけに、リアリティにあふれ、見てはいけないものを見ているようなスリルも味わえる。今期ドラマで、最後の最後までどうなっていくのか、最も読めない作品だろう。
●鈴木吉弘
1968年生まれ、神奈川県出身。京都大学卒業後、91年にフジテレビジョン入社。『いつもふたりで』『電車男』『西遊記』『ガリレオ』などを手がけ、09年に退社し、フリーのプロデューサーとして活動後、17年に復帰。ドラマ制作の室長など管理職を経て、『この素晴らしき世界』でプロデュース・脚本を担当する。