若村麻由美演じる平凡な主婦が、ある日突然失踪してしまった大女優になりすまし、きらびやかな芸能界という異世界へ飛び込んでいくフジテレビ系ドラマ『この素晴らしき世界』(毎週木曜22:00~)。脚本を担当するのは、「烏丸マル太」を名乗る謎の人物だが、その正体が、プロデュースを務めるフジテレビの鈴木吉弘氏であることが判明した。

これまで、福山雅治主演の大ヒットシリーズ『ガリレオ』などを手掛けてきた同氏がなぜ、今作の主人公と同様の“二刀流”となったのか。その経緯や兼任のメリット、今後の見どころなどについて、話を聞いた――。

  • 『この素晴らしき世界』で一人二役を演じる若村麻由美 (C)フジテレビ

    『この素晴らしき世界』で一人二役を演じる若村麻由美 (C)フジテレビ

■脚本家に世界観を伝えるのは時間がかかると考え…

平凡な主婦・浜岡妙子が、失踪してしまった大女優・若菜絹代になりすまして奮闘するというストーリーは、ともすれば大げさで非現実的なありえない物語になってしまいそうだが、主婦の視点と大女優の視点、どちらも丁寧な描写で、夢がありながらも実にリアリティのある作品に仕上がっている。

そんな今作の成立の経緯について、鈴木プロデューサーは「実は30年ぐらい前に考えた企画で、そのときは20代のアイドルが失踪してしまう話だったんです。それからタイミングがなくてずっと温めていた状態だったんですけど、木曜10時のドラマをやるとなったときに大人世代のコメディーをやりたいなと。それで何がいいだろうと考えたら30年前の企画を思い出して、これを大人の話にしたら面白いんじゃないかなと思ったんです。その当時一緒に考えていたプロデューサーの方々にも仁義を切って、やらせてもらうことになりました」と明かす。

テレビドラマでプロデューサーが脚本家を兼ねるのは、『東京湾景~Destiny of Love~』(04年、フジテレビ)の栗原美和子氏(脚本家のクレジットは「原夏美」)や、元フジテレビのプロデューサーで『ハケンの品格』第2シリーズ(20年、日本テレビ)の山口雅俊氏など、あまり例はないが、なぜ自ら脚本を執筆することになったのか。

「ありそうでない企画なので、脚本家の方と相談しながら、世界観などやりたいことを伝えていくにはちょっと時間がかかるなと思ったんです。脚本家の方とはその方の作家性を尊重しながらの共同作業になっていくので、自分が狙っているものと違うところへ行く心配もあって。だから水野(綾子)プロデューサー(※鈴木氏と共同プロデュース)や平野(眞)監督と協力しながら本を作っていったほうが当初のイメージに近いものができるだろうなと思って自分で書き始めました」

水野プロデューサーも「企画の最初の段階で第1話だけ全部書いてあったんですが、それがすごく面白かったんです。だからもうこのまま書いたほうがいいですよって言って(笑)」といい、脚本家としても走り続けることになった。

■兼任のメリットは「早いです!」

映画などで、自分が書いたものを映像で具現化させるために監督が脚本を書くケースは多く見られるが、プロデューサーが脚本を書くことについては、「プロデューサーの仕事は、もちろんスタッフィングとか予算管理もあるんですけど、一番大きな仕事は本を作ることなんです。これまでも、福田(靖)さん(『ガリレオ』)、相沢(友子)さん(『恋ノチカラ』 ※いずれも鈴木氏と手掛けた作品)など、いろんな方とご一緒させていただいて勉強させていただきました。距離感の違いはあってもプロデューサーと脚本家は一体となっての作業なんですね。だからプロデューサーが脚本を書くというのはそんなに不思議じゃないと思います」と実感を語る。

では、一番のメリットは何かを聞いてみると「早いです!」と即答し、「予算とか撮影効率とかを考えられるというのもありますけど、プロデューサーが脚本をチェックして書き直すことがない分、すごく早いです」と解説。とはいえ、苦労した部分を問うと、「短期間ですぐに全話書かなくてはならなかったので(笑)、苦労も感じられないぐらいでした。普通は何か思っても脚本家さんに『この部分を変えませんか?』ってなかなか言いづらくて、言い方を考えたりするんですけど、そういうのがないところは良かったです」と振り返った。

鈴木氏と言えば、是枝裕和監督の『怪物』で「カンヌ国際映画祭」で脚本賞を受賞した坂元裕二氏が、「向田邦子賞」を受賞した『わたしたちの教科書』(※1)のプロデューサーでもある。今の坂元氏の持ち味の一つである“社会派”な一面は同作がきっかけとなっているが、「坂元さんとは『―教科書』以来お仕事はしていないんですけど、今でも友人です。今回のドラマで言えば、一緒に作った『あなたの隣に誰かいる』(※2)の要素がすごく入ってますね。すごく気になるシーンで終わったりとか、視点の動かし方が自由過ぎたりとか、坂元さんが大好きなので“坂元さんだったらどう書くんだろうな”って思って書いたりもしました」と、意識したそうだ。

  • 坂元裕二氏

(※1)…『わたしたちの教科書』(07年)…菅野美穂演じる弁護士の主人公が、校内で不審な死を遂げた娘(志田未来)の真相を探るため、学校へ戦いを挑んでいくリーガルサスペンス。第1話のラストと最終回で明かされる真相が衝撃的。この作品で第26回向田邦子賞を受賞し、以降『Mother』(10年、日本テレビ)や『それでも、生きてゆく』(11年、フジテレビ)など、坂元作品に“社会派”の一面が加わっていく。

(※2)…『あなたの隣に誰かいる』(03年)…夏川結衣とユースケ・サンタマリアが演じる主人公夫婦がある町に引っ越してきたことで、次々と奇妙な出来事が巻き起こるノンストップホラー。“町に伝わる伝説”や“不死身の男”など、想像の斜め上をいく奇想天外なストーリー展開でありながら、リアリティとウィットに富んだ会話劇が散りばめられており、随所に“坂元節”も感じられる作品。