前述したように、廣野は2021年から「Bimi」名義でアーティスト活動を行っている。俳優業との二刀流だ。
「僕のなかで、強い感情を表現すること、例えば怒りや憤りなどは、アーティスト活動で。一方俳優は、いろいろな人と作ることが多いので、そこはしっかりと周囲とのバランスを見ながら。アーティスト活動は、自分を出す、俳優業は自分を出さず、キャラクターとして生きる。ミュージカルなどで歌うときとアーティストとしてステージに立つときは、明確に分けています。表現方法は違いますが、確実に相乗効果はあると思います」
さらに廣野は、アーティストのときは社長業のような、俳優はカンパニーに属している社員という視点も持っていると表現。経験を重ねるごとに、俯瞰で自身を見ることができるようになってきたというのだ。
「いまも感情のまま突っ走ってしまうことはあるのですが、反省できるようになったんです(笑)。昔は、結構開き直っていて、『なんだよ、いいじゃん』みたいな。でも最近はしっかりと人の意見を聞き、悪いところは反省して直すようになりました。今回の舞台も先ほど自分の役割として突っ走ると言いましたが、しっかりと周囲の意見を聞いて、進化していきたいです」
アーティストを目指して芸能界に入った廣野。その原点は幼少期から「とにかく目立ちたがり屋だった」と笑う。
「小さいころのお遊戯会とかのビデオを見ても、かなり目立ちたがり屋で。人と違うことをやっていないと気が済まない性格だったんです。小学校6年生のときにモテたいと思ってギターを始めて。そこからアクロバットやサーフィン、スノボ……かっこいいなと思ったものは全部手をつけていました(笑)。そのなかでも一番刺さったのが音楽で。自分を変えてくれたのも音楽で、憧れたのも音楽でした。グリーン・デイやセックス・ピストルズなどのパンクに憧れて。その思いが今に繋がっていると思います」
憧れの存在を追い求め、いつしか自分も人に夢を与える存在になった。
「でも承認欲求は、どこまでいっても満たされることはないんだろうなというのは感じています。どの職業でも同じだと思いますが、良かったと思われれば思われるほど、自分で良かったと思えば思うほど、もっと良くするためにはどうしたらいいか……と欲が出てくる。それは死ぬまで止まらないんでしょうね。壁にぶち当たって苦しい思いもありますが、それすらも楽しいと感じられています」
飽くなき探求心。舞台俳優、アーティスト活動……まだまだ進む道は果てしなく広がっている。
「映像でもなんでもやれるものは全部やりたい。でもこの仕事って自分で行きたいと思っていけるものでもないので、いろいろな話をいただけるように、いまあることを全力でやるだけです」
その意味で、まずは明治座で主演を飾る『ヴァグラント』に全力投球。「新藤さんを筆頭に、みなさん熱い思いを持って舞台に臨んでいるので、板垣恭一さんの演出に彩られて、僕らが舞台を縦横無尽に駆け巡る姿を期待してください」と力強く語ってくれた。
「a new musical『ヴァグラント』」は、8月19日~31日に東京・明治座、9月15日~18日に大阪・新歌舞伎座にて上演。
1998年4月28日生まれ、千葉県出身。2016年にハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』“烏野、復活!”にて舞台デビュー。以降、2.5次元舞台作品を中心に活躍中。近年の主な出演作品にミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン、『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stageシリーズ、『ワールドトリガー the Stage』シリーズなどがある。今年3月には舞台『鋼の錬金術師』では主人公エドワード・エルリック役を務めた。2021年より「Bimi」名義でアーティスト活動も行う。