半世紀以上にわたって積み上げてきた「昼ドラ」のノウハウは、今も「土ドラ」に生き続けている。昼ドラではスケジュールの都合上、1つセットを建てると全65話のうち約10話分そのセットのシーンを3日間集中して撮影していたことから、自ずと今も台本を早く作ることが意識されているという。佐野史郎とユースケ・サンタマリアが「超大変」と言うように、撮影を詰め込むスケジュールも健在だが、「台本が予定通りに上がらないことがあるので、その都度スケジューラーさんに助けていただいています」と調整が行われている。
また、通常の連ドラは1クール(3カ月)の放送が基本だが、『テイオーの長い休日』のように2カ月という放送期間の作品があるのも、昼ドラの名残だ。
「昼ドラのときに、65話(3カ月)に加え、45話(2カ月)で勢いよく描く作品ができるようにして、ドロドロのイメージが定着していた中で、温かいヒューマン系など企画に幅を作る方策を取り入れたのですが、それを土ドラでも対応しています。今回のように船越さんに2サスの帝王を演じていただくという、ある意味飛び道具なドラマも2カ月ということでチャレンジができるので、いろんなパターンを視聴者に届けられるのですが、クールごとじゃないといつ始まったか分からないと言われることもあるので、どちらが良いかというのは難しいところですね」
東海テレビ東京制作部のドラマ担当で、昼ドラの制作経験があるのは、松本Pを含め半数程度。経験のないプロデューサーは、昼ドラにはなかったスタイリッシュなテーマやラブストーリーを作ることで企画に広がりを持たせているが、松本P自身は“コアな人間ドラマ”というイズムを守り続けている。
「昼ドラから紡いできた“普通は行かないところに行くから面白い芝居が生まれる”、“人間の本質をえぐり出す”といった意識は持っていますね。泥臭くて、感情爆発して鼻水流しながら泣くシーンを作らないと…と思いながらやっているので、古臭いと言われるかもしれないですけど、そこまでキャラクターを追い込めたときは、ストーリーとして良いものが出来上がったと思います。その作り方は変えられないし、アップデートできるところはどんどんしていきたいですが、配信ドラマでもどんどん新しいものを作られている中で、根幹にある心理的なところや人間関係は、きっとシェイクスピアの時代から変わってないはずだと思うんです。描くことは変えずに描き方をどう洗練させていくかでドラマはこの50年成長してきたと思うので、次の50年さらに成長するために、勉強し続けたいと思います」
■“かゆいところに手が届く土ドラ”であり続けたい
裏にはテレビ朝日も連ドラ枠があるが、「狙っているターゲットが違うと思いますし、視聴者にとってこの時間に選択肢があるというのは良いことだと思うので、テレ朝さんはライバルというより、一緒に視聴者の皆さんを楽しませるために頑張っている同志という気持ちで見ています」と意識。
一方で、近年は配信戦略を重視して各局でドラマ枠が次々に増えているが、この傾向に、「作る側からすると、本当に群雄割拠で厳しい時代だと思います」と捉えながら、「見る側に立ったときは、こんな素敵なことはないと思うんです。そんな皆さんに選んでもらうために何ができるかということを考えると、隙間産業として“かゆいところに手が届く土ドラ”であり続けたいと思いますし、“そのテーマやるか!”と思ってもらえる企画をお届けし続けたいと思っています」と意欲を示す。
また、在名局で唯一、全国ネットの連ドラ枠を持つことで、「“キー局に比べてお金や時間がなくても面白いものを作れるぞ”という反骨精神もありますし、それがないとローカル局がドラマを作る意味もないと思います」と力を込めた。
●松本圭右
1978生まれ、東京都出身。関西の大学を卒業後、01年に東海テレビ放送入社。昼ドラでは『エゴイスト~egoist~』『娼婦と淑女』『明日もきっと、おいしいご飯 ~銀のスプーン~』、土ドラで『朝が来る』『ウツボカズラの夢』『悪魔の弁護人・御子柴礼司 ~贖罪の奏鳴曲~』『その女、ジルバ』『最高のオバハン 中島ハルコ』『准教授・高槻彰良の推察』『テイオーの長い休日』などのプロデューサーを務める。