29日に最終回を迎える東海テレビ・フジテレビ系ドラマ『テイオーの長い休日』(毎週土曜23:40~)。船越英一郎演じる元“2時間サスペンスの帝王”熱護大五郎が、人生のリベンジに奔走するという、船越本人とクロスオーバーさせるようなストーリーに、SNSでは「コロンブスの卵みたいなアイデアがすごすぎる」「全員が魅力的なキャラだし生き生きしてる」といった声が上がっている。

東海テレビ制作の「土ドラ」枠では、こうしたチャレンジングな企画が次々に放たれているが、それが成立する背景には、同局が半世紀以上にわたり「昼ドラ」を制作してきたノウハウや、ドラマ界における“隙間産業”でありたいという意識があるようだ。『テイオーの長い休日』を手がける東海テレビの松本圭右プロデューサーに、各局に配信重視でドラマ枠が増える中での戦い方も含め、話を聞いた――。

  • 『テイオーの長い休日』に主演する船越英一郎 (C)東海テレビ

    『テイオーの長い休日』に主演する船越英一郎 (C)東海テレビ

■船越が第一線で活躍を続ける理由

今作のきっかけは、船越と長年にわたり2時間サスペンス=2サスを作ってきたホリプロ・井上竜太プロデューサーからの「船越で何かドラマ作りませんか?」という提案。それを受けた松本プロデューサーは「せっかくなら船越さんにしかできない役を演じていただきたいと思って、パブリックイメージとして“2サスの帝王”というのがあったので、船越さんが“仕事のなくなった2サスの帝王”をやったら面白いのではないか」と考えた。その上で、ドラマとして発信するメッセージを設定。

「2サスがなくなったのはいろんな要素があったんだろうけど、やはり大きいのは時代の流れだったのではないかと。そう考えたときに、昭和、平成、令和と変わっていく中で、自分の思いとは別のところで今までのやり方や考え方が通用しなくなった人たちが、この業界に限らず多くいらっしゃるのではないか。時代が変わって自分が変われなくても、その人自身がダメなわけないし、それまで生きてきた人生を肯定できるようなメッセージを込められたらと思いまして、“変われない2サスの帝王の信念が、周りの人たちを勇気づけて変えていく”というドラマを作ろうと思いました」(松本P、以下同)

こうしてテーマがまとまったものの、大御所の船越に“仕事がない2サスの帝王役”をオファーするというのは、「もしかしたら怒られるかなとも思っていました」と、当然勇気がいることだった。ところが、「企画のテーマや思いも分かってくださって、『面白いね』と言ってくださったんです。撮影に入るとむしろノリノリで演じてくださっているので、視聴者の方もそこを楽しんでいただけているのではないかと思います」と語る。

船越と言えば、スペシャルドラマ『船越英一郎殺人事件』(18年、フジテレビ)で本人役を演じたこともあるが、チャレンジングな企画に果敢に臨むマインドがあるようだ。

「今回は、船越さんが演じてきたであろう2サスのキャラクターをモチーフにした役柄になりきると本音がしゃべれるという設定にしたのですが、その分、1つの話で3~4個のキャラクターを演じなければいけない。これはとても大変だと思うのですが、『60歳を超えて、今までやったことがないチャレンジをさせてもらえることがうれしい』とおっしゃってくれるんです。常に自分をさらに高めるということを意識されているのかなと思い、それが第一線で活躍を続けられるエネルギーなのではないかと感じました」

  • 劇中に登場する“2サス”のポスター

■業界関係者が実話エピソードを提供

“2サス”とひとくくりにされ、時には「マンネリ」と揶揄(やゆ)されることもあったジャンルだが、今作に登場するキャラクターを見ると、実にバラエティ豊かであることが確認できる。

「僕自身は2サスを作ったことがなくて、常に見る側だったんですけど、今回のドラマをきっかけに1つ1つの作品を見ると、本当に丁寧に作られているのを感じました。作り手の思いや作品に対しての向き合い方が、何十年と続いてきたところの根幹にあったのだと思います」

モデルとなるキャラクターの作品の関係者に許諾を取ると、多くの人がこの企画を面白がってくれているのだそう。そんなやり取りを通じても、「皆さんの2サスに対する愛情を感じ、それを船越さんも忘れずにやってらっしゃることを痛感しました」と、改めて気を引き締めた。

今作の脚本・入江信吾氏も、2サスへの思い入れが強い1人。『信濃のコロンボ事件ファイル』『釣り刑事』『医療捜査官 財前一二三』など、実際に2サスを主戦場に書いてきただけに、2サスが放送されなくなった現状への忸怩(じくじ)たる思いが、セリフに反映されているという。

また、入江氏が「代わりなんていくらでもいるんだよ」と言われたことなど、経験談も盛り込まれているそうで、松本Pも「第2話で出てきた『“業界を変えてやる”って言って実際に変えたやつはいねえんだよ』というセリフは、実際に僕が上司から言われた言葉です(笑)」とエピソードを提供。マネージャーとタレントの関係性においては、かつて船越のマネージャーだったホリプロの菅井敦社長が、新人時代に現場で経験した船越とのエピソードも使われており、「本当にリアルな出来事をモチーフにしているので、“そんなことあるわけないよ”というエピソードは、あまりないと思います」とのことだ。

■満を持して“崖”シーンが登場

  • (C)東海テレビ

最終話については、「熱護という男がなぜああいう人間になったかというのがひも解かれる、最終回っぽい回ではあるんですけど、実は入江さんとは“最終回っぽくない最終回を作ろう”と話しています。一言で言うと、ものすごくバカバカしいことを一生懸命やっていて、熱護とライバルの桐林藤吾という“おっさん”2人がオーディションで張り合うというシーンを、船越さんと大和田伸也さんがリアルにバトルしてくださっています」と予告。

また、2サスファンが心待ちにしている“崖”のシーンが満を持して登場しており、「銚子の屏風ヶ浦で、船越さんは『ようこそ我が職場へ!』『そこからあっちは危ないから、全部俺に聞いて!』とおっしゃっていましたが、訪れるのは久しぶりで、“ようやく来たか!”というテンションで演じられていました」と楽しんで撮影に臨んでいたそう。さらに、「2サス時代にはそんなに普及していなかったであろうドローンを駆使した映像もありますので、楽しみにしていただければ」と見どころを語っている。