SNAPで解析を始める
SNAPは、ESAの提供する無償の衛星データ解析ツールで、ここからダウンロードできる。SNAPを起動し、ダウンロードしたSentinel-1データをZIPのままドラッグすると、ファイルが開く(File‐Open Productメニューから開くことももちろんできる)。ウインドウ左の「Product Explorer」で読み込んだファイルを開けてみると、「Bands」の中にデータが含まれている。ここでは「Intensity VV」を使用する。ダブルクリックしてみると右側にデータが画像化されるのだが、ダウンロードしたばかりの処理レベルの低いデータは、衛星の航行方向が上になっていることがあり、地図とは東西南北が反対になる。村上市の沖合にある粟島や猪苗代湖といった目印を手がかりに、頭の中で画像を反転させて処理する必要がある(手順の最後では、逆転した画像を地図に合わせて反転させる方法も解説する)。
900MBもあるSARデータは大きすぎて扱いにくく、処理落ちしてしまうこともよくある。そこでまずは、必要な部分だけを抽出したサブセットを作ろう。メニューからRaster‐Subsetを選択する。緯度経度を指定して切り抜くことも可能だが、わからない場合は画像を見ながらブルーの枠を絞って切り抜ける。左下の「WorldWind View」タブに処理中のエリアが表示されているので確認し、「OK」をクリックして切り抜く。
すると「Product Explorer」に、[2]という番号のついたサブセットのデータが表示される。これ以降、何か処理をするたびにデータが増えていくので、常に最新の番号を開くようにしよう。
続いて、データの較正とノイズ除去を行う。メニューからRadar‐Radiometric‐Calibrateを選択、データの保存フォルダを指定し、処理パラメータのタブでは、対象に「VV」を指定する。較正した[3]のデータを開き、メニューからRadar‐Speckle Filtering‐Single Product Speckle Filterを選択する。保存フォルダを確認して処理パラメータタブでLee(Leeシグマ)、7×7を選択(デフォルトで指定されているままでもOK)。スペックルフィルタリングとは、SAR特有のノイズ(スペックル)を処理する手法で画像のザラつきが減って、見た目にもわかりやすくなる。
ここまででSARデータの下処理を行い、いよいよ水域(水面の可能性があるエリア)の抽出を行う。SARの観測データで必要な情報は、極論すれば「水面」か「それ以外」かの2種類だ。そこで、画像を「大津の2値化」という2値化手法を使用し、しきい値で白黒の2色に分ける。ここからは処理した画像のヒストグラムを利用する。
ウインドウ左下の、「Colour Manipulation tab」を開いて「Sliders」を選択すると、ピクセルごとの後方散乱係数(アンテナが受信した電波の強さを数値化したもの)による山(クラス)がいくつかできている。陸を表す白に近い高いクラスと、水面を表す黒に近いクラスができていることがわかる。大津の2値化では、クラスとクラスの間の分離度が最大になる値をしきい値に設定する。対数表示(Log10)をクリックするとしきい値が表示される。
この数値を元に、「バンド計算」機能を使ってすべてのピクセルを2値に分ける。メニューからRaster‐Band Mathsを選択し、Nameに新たな名前をつけて「Edit Expression」ボタンをクリック。計算式は255*(Sigma0VV<しきい値)でも、if Sigma0VV<しきい値 then 1 else 0でもOKだ。
これで指定した名前のバンドが作成され、水域と非水域で白黒に2値化された画像が表示される。最後に、地図にフィットするよう画像を補正する。メニューからRadar‐Geometric‐Terrain Correction‐Range-Doppler Terrain Correctionを選択。ファイル保存先を確認し、処理パラメータタブでソースバンドに先ほど作成したバンド名を指定する。座標系は特に必要がない限り標準のままでOK。東西南北が逆転していた画像は、この補正で地図と同じく北が上の表示になる。
これらの操作で抽出した水域データは、そのままでは見ても非常に分かりにくく、地名など位置を示す手がかりも表示できない。これは、処理したデータをGISソフトと重ね合わせて利用することが前提になっているからだ。そこで標準機能として、Google EarthのKMZ形式の出力が可能だ。Colour Manipulationタブで水域は水色に、それ以外のエリアは透明化した上で、画像を右クリックしてKMZ形式で保存する。出力したKMZファイルを開くと、Google Earthで表示することができる。