俳優の赤楚衛二が主演する日本テレビ系ドラマ『こっち向いてよ向井くん』(12日スタート、毎週水曜22:00~)。“雰囲気よし、性格よし、仕事もできる、いいオトコ”の向井くん(赤楚)が10年ぶりに恋をしようと意気込むが、素敵な女性と出会いながら“恋愛迷子”ぶりを見せるラブコメディーだ。

この向井くんが「まさに自分」と刺さり、原作漫画のドラマ化を企画したのは、日本テレビの鈴木将大プロデューサー。徹底的に“リアル”にこだわったドラマ作りの狙いや、赤楚の魅力、そしてGP帯連ドラ初のメインプロデュースとなる今作への意気込みなどを聞いた――。

  • 『こっち向いてよ向井くん』主演の赤楚衛二 (C)日テレ

    『こっち向いてよ向井くん』主演の赤楚衛二 (C)日テレ

■「これはまさに自分の話なのではないか」

『こっち向いてよ向井くん』をドラマ化するきっかけは、地元の友人たちとの他愛もない会話だった。

「幼なじみの仲間が近所に住んでいてよく飲んだりするんですけど、たまに男3人で恋バナとかするんですよ(笑)。そんなことを女友達に話すと、『男子って恋バナするんだ。私たちは全然しないよ』『結婚して子どももいるし、そうじゃなくても各々が今やりたいことの話しかしない』と言われて、“うわ、取り残されてるぞ…”と思ったんです。そのときに、たまたま『こっち向いてよ向井くん』の原作本を手に取って、“これはまさに自分の話なのではないか”と感じたことで、リアルな作品が作れると思い、企画書を書きました」(鈴木P、以下同)

打ち合わせで「こういう人って結構いますよね」と言う赤楚に、「僕が全く一緒で…」と告白した鈴木P。「自分が“雰囲気よし、性格よし、仕事もできる、いいオトコ”だとは思ってないんですけど、外見的なところを除けば、友達もいるし、恋愛もしてきたし、仕事だって人並みにはしてきたつもりだったのに、何か悶々としていたんです」と打ち明ける。

原作を読んで特に刺さった言葉は、向井くんが当時の彼女(生田絵梨花)に「ずっと守ってあげたい」と言ったときに返された「守るって…何?」だ。

「男って『守る』と言いがちじゃないですか。そこに悪意はなくて、彼女を大事にしたいという意味で言うんですけど、その通り受け止めてうれしいと思ってくれる人もいるだろうし、上から目線に感じる人もいるだろうし、この『守る』という言葉一つでいろんな視点があるんだと思うと、やっぱり恋愛に対する言葉はすごく難しいし、時代の変化も含めてセンシティブになっているんだなと感じました」

  • 向井くんの元カノを演じる生田絵梨花(左)と赤楚衛二 (C)日テレ

■過去の恋愛話を暴露しながら脚本作り

そんな時代の変化をとらえた今作は、従来の恋愛ドラマではあまり見られなかった関係性が描かれる。

「普通の群像劇なら、5人いたら5人がそれぞれつながっていたりしますが、今回の作品はなんとなく恵比寿周辺の話にはしているものの、全員が同じ会社でもないし、直接的なつながりがなくてバラバラなんです。そうすると、この人とこの人を出会わせたいけど不自然になるとか、この人は誰に対してなら本音を言えるのかというのを考えるのが難しくなってしまう。そこで、関係性を強引にギュッと近くすることもできますが、人間関係って実際はバラバラじゃないですか。中でも、向井くんと洸稀さん(波瑠)は、恋の相談相手であり、友人でありという波瑠さんがおっしゃっていたのがまさにそうで、“名前がつかない関係性”。最近はそういう関係も増えていると思うので、なるべく僕たちの生きている世界と地続きにしてリアルに見せたいんです」

このリアル感を象徴するのが、主人公のキャラクターだ。「向井くんはめちゃくちゃ普通の子なんです。特徴がないから、赤楚さんもどこに軸を置いたらいいのか悩んでいました。でも、現実世界の人って別に役を演じて生きているわけではないじゃないですか。だから、今までは普通の子じゃドラマにならないとされてきたんですけど、ここは思い切って普通の主人公にしてとにかくリアルに作って、見ている人にとって自分の物語に感じてもらえるようにしたいんです」と強調する。

だからこそ、キャラクターについては脚本の渡邉真子氏を含め、相当議論して作っていったそう。さらに、「表情一つとか、語らなくても関係性が分かる雰囲気、画面作りにすごくこだわっているので、役者さんもみんな大変だと思います」と、その苦労を思いやった。

脚本作りは、渡邉氏や鈴木Pら未婚組、既婚組が一緒になって、自身の過去の恋愛話を暴露しながら行っているため、「1つ1つのエピソードがリアルで血の通ったものになっていると思います」と自信。その一方で、「僕が恋愛エピソードを披露すると、真子さんに『それはダメだね』とか言われたりして、本を作りながら自分がエグられてる感じもあります(笑)」と、身を削っての作業となっているそうだ。

  • 赤楚衛二(左)と波瑠 (C)日テレ

■原作者と話しながらドラマオリジナルの結末に

そんな鈴木Pに、このドラマを作って恋愛観・結婚観に変化があるかを聞いてみると、「どんどん分からなくなってきました(笑)。人を好きになるって、実はわがままで一方的な感情じゃないですか。大人ってわがまま言うことを恥ずかしいしカッコ悪いと思ってるから、だんだん『好き』って言わなくなると思うんです。それで、好きなものを好きと言っていいのは当たり前のはずなのに、その感情について言い訳がましくなっているような気がするんですよね」と吐露。

一方で、撮影が進むにつれて、「向井くんが本当に悩んで苦しんで、洸稀さんとかいろんな女性に向き合って学んでいく姿を見ると、傷つくことも含めて恋愛や結婚について考えることをやめちゃいけない、“分からないです”で終わらせちゃダメだと思うようになりました」と、赤楚の演技に心を動かされている。

原作は連載継続中のため、ドラマではオリジナルの結末を用意。「原作のねむ(ようこ)さんとは、最初から『こういうゴールにしたいです』ということをお伝えした上で、脚本作りの中でも意見交換しています」とのことで、原作の世界観が担保されたストーリーが展開されるようだ。