寿恵子を自分の妾にしようとする高藤。万太郎の恋のライバルとしては、家柄や経歴を含めてかなりの強敵となる高藤だが、伊礼はどんな点を意識して演じたのだろうか?
「僕は悪役、いわゆる三角関係の恋でのクズ役などをよくやるし、正義のヒーローよりも、そっちを演じることのほうが好きでして。そういう役を演じる上でいつも大事にしていることは、悪いやつには悪いやつなりの正義があるということです。そこが詰まってないと、ただの薄っぺらい悪役になってしまう。だからたとえ嫌われたとしても、彼は彼なりに何らかの正義を持っていて、どうしても譲れないものがあるからこそ、その選択に至ったと考えるようにしています」と役へのアプローチについて語る伊礼。
「今回も主人公の恋敵ですが、僕としては、高藤は初めて本当の恋をしたという設定にしています。この時代は、妾を作ることが当たり前のような感じだったと思いますが、それを当たり前化してしまうと、高藤は印象に残らないと考えました。また、恋敵としてのレベルが低くなってしまい、万太郎の物語、いわゆるこのドラマが進展していかないんじゃないかという思いもあって。だから1つスパイスを与えるため、高藤は高藤として、しっかり自分の定義を持っていないとダメかなと。この後、きっと万太郎は寿恵子と結婚するんだろうなと思っているので、そこに何か良いきっかけになる存在になりたいとは思っていました」
さらに「そこを大前提としても、高藤は人から見れば、すごく嫌なやつだと思います。奥さんがいるのに、あんなにかわいい子に手を出す、しかも相当、歳も離れている。でも、高藤としては、今の奥さんとは政略結婚だったから、初めて恋に落ちたわけで。子供がいない設定にしていますが、そのことが夫婦関係の悪化というか、亀裂にも繋がっていると、勝手に僕は作っています。妻の弥江さん(梅舟惟永)とも、こんな方向だったら面白いよねといった話もしました。彼女の芝居も本当に素晴らしいし、説得力があるのは、同じようにいろんなところを埋めているからなのかなと」と、ただの噛ませ犬に終わらない高藤の役作りについて真摯に語った。
「今後は舞台だけではなく、映像作品もやっていきたいと思っています」と意欲を見せる伊礼に演じてみたい役柄についても聞いてみた。
「ミュージカルで悪役、クズ役と言ったら伊礼彼方なんです(笑)。だから、1回ドラマの方でもそういう役を作っていけたらと思っている一方で、すごく優しい父親役とかも、実はやってみたいです。ただ、そういう父親役をやってしまうと、おそらく好印象の方が先立ち、悪い役をやったときにギャップが生まれて叩かれそうなので、先に悪い役をやったあとで、良い父役をやりたいという理想はあります」とユーモアたっぷりに話す。
「また、ちょっと狂った役、殺人鬼など、なかなか舞台では演じづらい、表情が見えづらい役にも惹かれます。舞台だと『ジキル&ハイド』ぐらいかな。ミュージカルだと、シェイクスピア作品などではありますが、そういったものをすごく細かい表情でやっていけたら、幸せだなと思います。でも、その後にも、必ずいい父親役は絶対やらせていただかないと(笑)。最終的にはやっぱいい人でいたいなと思うので」
舞台だけではなく、初出演の朝ドラでも、パワフルな演技を魅せた伊礼。演技力はもちろん、チャーミングな人柄も相まって、『らんまん』のあとも、映像作品のオファーがきっと入るに違いない。とはいえ今は、万太郎と寿恵子の恋の成就を祈りつつ、猪突猛進にアタックしていく高藤の奮闘ぶりも楽しみに見ていきたい。
1982年2月3日アルゼンチン生まれ、神奈川県出身。2006年『ミュージカル テニスの王子様』で舞台デビュー。2008年、東宝版『エリザベート』で皇太子ルドルフ役に抜擢され、舞台を中心に活動していく。2019年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のジャベール役で上半期の読売演劇大賞にノミネート。近作のミュージカルは『ミス・サイゴン』、『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』、『キングアーサー』など。今夏には『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』が控えている。
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