スペインのカタルーニャ地方に生まれた世界的な建築家アントニ・ガウディの代表的な建築物であり、“未完の聖堂”と呼ばれるバルセロナのサグラダ・ファミリア聖堂に焦点を絞った展覧会「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が6月13日~9月10日に東京国立近代美術館で開催される。同展覧会で音声ガイドを担当するのが俳優の城田優だ。日本人の父とスペイン人の母を持つハーフの城田は、幼少期にサグラダ・ファミリア聖堂の近くに住んでいて、何十回、何百回とその地を訪れているという。まさに城田にピッタリの役割だと思われるが、話を聞いていると、ほかにもサグラダ・ファミリア聖堂と城田にはいろいろな共通点があるという。

  • 城田優

今回開催される展覧会は、長らく「未完の聖堂」と言われながら、いよいよ完成の時期が視野に収まってきたサグラダ・ファミリア聖堂に焦点を絞り、ガウディの建築思想と造形原理を読み解いていくもの(会期中一部展示替えあり)。そんな展覧会の音声ガイダンスを城田が担当する。

「探せば芸能界のなかにも、スペインやバルセロナにゆかりのある人はいらっしゃると思うのですが、実際にサグラダ・ファミリアの徒歩圏内に住んでいて、何十回、何百回と建物を見ている人はそんなに多くはないんじゃないでしょうか。自分自身もスペイン人の血が入っていますし、バルセロナやサグラダ・ファミリアのことも誇りに思っています。お話をいただいたときは、自分がこの仕事に携わることができて光栄でした」

幼少期から慣れ親しんできたサグラダ・ファミリア聖堂。今回音声ガイダンスを務め、その魅力を改めて感じたという。

「僕自身も再度いろいろ調べましたし、用意していただいた原稿を読んで、新たな発見もありました。小さいときは、サグラダ・ファミリアの有名な5本の塔みたいな写真がありますが、本当にあれぐらいしかできていなかったんです。そのときは100年ぐらいかかると言われていたのですが、そこから30年程で急激に作業が進んだように思います。正直、バルセロナやカタルーニャの人間は、未完成であることが芸術みたいな思いがあり、実際僕もそう思っていたんです。建物自体を見ると、めちゃくちゃ年季の入っている部分と、最近作りましたというようなものが混在している。そこも神秘的で芸術的だなと感じます」

■「自分のアイデンティティを強く呪っていた時期があった」

音声ガイダンスを通して、幼少期に過ごしたスペインの代表建築物を日本の人々に伝える仕事。実際、このインタビューでも城田の口から、バルセロナやカタルーニャ地方の魅力が発せられる。日本とスペインの両方のルーツを持つ城田にとって、両国の文化の懸け橋になるという思いは強かったのだろうか。

「幼少期は全くそんなことは考えていませんでした。強い言葉に聞こえるかもしれませんが、僕は自分のアイデンティティを強く呪っていた時期がありました。スペインにいるときはアジア人、日本に帰ってきてからは外国人として認識されて、自分の居場所がなかったんです。自分のすべてがコンプレックスでした。だからスペイン語を話すもの嫌でしたし、スペインやバルセロナという国や街についてみんなに話したいという気持ちは全くなかった」

そんな幼少期を過ごした城田だが、年齢を重ね、さまざまなことを経験していくうちに、「事実は変わらない」と達観し、自身のルーツに向き合えるようになっていく。少しずつスペインの良さを理解してくれる人たちの言葉に「そうでしょ?」と誇りに思えるようになっていったという。

「劇的に何かがあって……ということではないのですが、やっぱり実際にスペインで過ごしてきた日々や経験してきたことは、自分にとっては紛れもない大きなことですし、自分の人格を形成する大きな要素になっています。そういうことを少しずつ理解できるようになって、ほころびがなくなっていった感じです。スペイン語に“ケセラセラ”という言葉があるのですが、“なるようになる”というように考えられるようになりました。マイノリティとして泣くほど悔しい時期があったからこそ、今があると思っています」

西洋的な顔立ちによって演じられる役が限られ、オーディションになかなか受からなかった時期もあったというが、城田だからこそ演じられる役も多い。

「僕だからこそできるものが少しずつ増えてきているのが自分としても救いです。自分が幼少期に嫌な思いや悔しい思いをしたことが生きて、次の世代につながる道のようにもなればなと思っています」