また、志田未来が演じる妻・糸によって、今川義元が生前に糸だけに語っていた氏真への真の評価が伝えられるシーンも胸熱だった。さらに糸が氏真に引導を渡すようなやりとりも描かれた。

「第12回のテーマは家族愛でもありました。志田未来さん演じる糸がまた素敵なんです。糸が『早く楽になりましょう。そこから降りましょう。戦っているあなたよりも、蹴鞠をしているあなたの方が糸は好きでございます』と言うんです。ああ、氏真はきっと『自分はこんなにも人に恵まれていたんだ』と思えたのではないかと思います。でも、その家康に氏真は『そなたはまだ降りるな。そこでまだまだ苦しめ』と言うんです。才能のない者はないなりにずっと悩むし、これからも悩むけど、お前は選ばれし者だから、そこで苦しまなきゃいけないんだと伝えたかったのだと思います」

溝端は氏真による辞世の句「『なかなかに 世をも人をも 恨むまじ 時にあはぬを 身のとがにして』(世も人も恨むことはない。この時代に合わない自分の身のせいなのだから)を口にし、「氏真は早くこの乱世から降りたかったのだと思います。自分は才能にも時代にも恵まれなかったと思う中で、やはりとどめは家康に刺してほしかったと。きっと死ぬ前に、もう一度、家康に一目会いたいと思っていたのではないかと、演じていて思いました。ただ憎いだけの敵ではなく、幼少期の良い思い出もたくさんあるし、本当に可愛い弟でもあった。戦国の世でなければ、手を取り合い、父上を越えよう、今川家をもっと繁栄させるとぞ、2人とも本気で思っていた仲だったと思います」と述懐。

まさに第12回で、氏真の魅力を余すことなく演じ切った溝端。すでにこれまでの回でもその演技を称賛する声が多数上がっているだけに、まだまだ氏真を見ていきたいと願う視聴者も多いだろう。

今後の氏真について「ある種、戦国の敗者ですが、最終的には生き残って、すごく数奇な運命をたどったようです。氏真の第1部としては今回で一旦完結しますが、その後の生き様も見ていただきたい。きっと今の時代だからこそ、氏真の人物構成が皆さんに刺さるのではないかなと思います」と述べる溝端。来るべき時に再登場するらしいので、今から心待ちにしたい。

■溝端淳平(みぞばた・じゅんぺい)
1989年6月14日生まれ、和歌山県出身の俳優。2006年、第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞して芸能界入り。2007年にドラマ『生徒諸君!』(テレビ朝日系)で俳優デビューし、『DIVE!!』(08)で映画初出演にして初主演。以降、映画、ドラマ、舞台などで活躍。蜷川幸雄演出の舞台『ヴェローナの二紳士』(2015)では初の女役を演じて話題に。2019年に『スカーレット』でNHK連続テレビ小説に初出演。現在、Huluのドラマ「君と世界が終わる日に」Season4が配信中。NHKのドラマ『正直不動産スペシャル』が2023年度冬に放送予定。

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