ただ、2時間ドラマは80年代後半からのトレンディドラマ隆盛とともに、「古い」「同じネタの繰り返し」など、ネガティブなイメージで低迷した時期があるのも事実。2時間ドラマに出演する俳優に“都落ち”感があったのも否めない。しかし近年では、視聴者の意識に変化が起こり始める。『バイプレイヤーズ』(テレビ東京)をはじめ、脇役やいぶし銀の俳優たちの名演技への注目だ。
例えば沢村一樹に関しては、『浅見光彦』シリーズ(TBS)で、多くのベテランと何度も共演したことで高い演技力を持つようになったという見方もできる。これを片平に聞くと、「なるほど、そういう見方もあるかもしれません」と自身について語ってくれた。
「『赤い霊柩車』シリーズはファイナルを含めて39本ですが、これは私のシリーズものとしては最も長い数字。本当に育ててもらったという思いがあります」
明子を演じる上で注意していることは、素人が事件を解決するので自身が刑事っぽくならないことだったという。「素人っぽさを残し、感情から出る言葉で犯人に接する、諭すことを心がけました」。つまり、ステレオタイプの刑事の芝居ではなく、“感情から出る言葉”で演技を続けた結果、ますます演技力が磨かれたと言えないだろうか。
「もみちゃんも努力家で。いつも黙々と自主トレしているんですよ。第1作でもみちゃんはすごく大人しい京女なんですけど、回を増すごとにコメディエンヌになっていく。それはやっぱり師匠のお導きがあってのことで、教育され引っ張られ、喜劇人協会の理事を務めるまでになりましたから」
■コロナで撮影中止「立ち消えになっちゃうんじゃないか」
実は、昨今の2時間ドラマ減少の流れの中、コロナ禍で『赤い霊柩車』39作目の撮影が中止になっていた。その際、「『赤い霊柩車』シリーズも立ち消えになっちゃうんじゃないか」という寂しさを持ったという。だが、とても愛された作品であり、フジテレビのはからいで、改めて39作目をファイナルとして打つことができたと笑顔で語る。
2時間ドラマの女王の勇姿を、そして2時間ドラマの魅力がたっぷり詰まった本作を観て、改めて2時間ドラマの魅力やその果たしてきた役割に思いを馳せるのもいいかもしれない。30年も続いたこのシリーズはもはや“テレビの歴史”を語る上で欠かせないからだ。
●片平なぎさ
1959年生まれ、東京都出身。『スター誕生!』(日本テレビ)に合格し、75年に歌手としてデビューし、同年公開の映画『青い山脈』で女優デビュー。『山村美紗サスペンス 赤い霊柩車』(フジテレビ)のほか、『小京都ミステリー』(日テレ)、『子づくり旅行』(テレビ朝日)など、各局の2時間ドラマで主演シリーズを持ち、「2時間ドラマの女王」と呼ばれる。現在はドラマ『罠の戦争』(カンテレ)のほか、バラエティ番組『坂上どうぶつ王国』(フジ)にレギュラー出演する。