2019年、TBSの『月曜名作劇場』が終了したことで地上波民放のゴールデン・プライム帯から2時間ドラマ専門枠が名実共に完全消滅した。その後、単発の2時間ドラマも減少していく中、ついに片平なぎさ主演の『赤い霊柩車』シリーズ(フジテレビ)が、『山村美紗サスペンス 赤い霊柩車39 FINAL~弔の京人形~』(17日20:00~)で、30年の歴史に幕を下ろす。

『赤い霊柩車』は推理作家・山村美紗の『葬儀屋社長 石原明子シリーズ』が原作。京都にある石原葬儀社を舞台に、社長の石原明子(片平)が探索好きが高じて、事件絡みの葬儀などから毎回殺人事件を捜査し、「葬儀屋探偵」として事件を解決していく姿を描く。

“2時間ドラマの女王”の異名を持つ片平は、この名物シリーズのファイナルにどのような思いを抱いているのか。また、各局で主役を演じたことから感じる2時間ドラマの魅力、そして果たしてきた役割とは。話を聞いた――。

  • 『赤い霊柩車』シリーズ主演の片平なぎさ

    『赤い霊柩車』シリーズ主演の片平なぎさ

■「テレフィーチャー」に出演するのが夢だった

2時間ドラマの歴史は1971年に遡る。『2時間ドラマ40年の軌跡』(TOKYO NEWS BOOKS)によれば、テレビ朝日の90分枠『土曜映画劇場』で、B級の洋画の消化枠として放送されていた。だが洋画は公開されてから数年経たないと放送できないことや、アメリカからのストックが切れたら他国の映画を流さなければならないというデメリットがあった。

そこで目をつけたのが、アメリカのテレビ映画(Made for TV Movies)。試しに1971年5月、『日曜洋画劇場』で、アメリカのテレビ映画『サンフランシスコ大空港』を本国から8カ月後に放送。15.9%の視聴率(世帯、ビデオリサーチ調べ・関東地区)を獲得し、テレビ朝日の高橋浩氏(のちに『暴れん坊将軍』や『セーラームーン』などを手がけたプロデューサー)は、これを「テレフィーチャー」と和製英語で命名。76~77年にリニューアルされた『土曜映画劇場』で日本発のテレフィーチャーを制作し、ついに1977年に数々の名作を生み出した『土曜ワイド劇場』が誕生する。

「私がデビューしてドラマを始めた頃は、テレビ朝日さんのテレフィーチャーが一番長いドラマでした。それに出演するのが夢で…。2時間ドラマになってから『火曜サスペンス劇場』(日本テレビ)のゲスト枠みたいな出方だったのが、29歳のときに初めてのシリーズになる『小京都ミステリー』(89年)の主役を演じさせてもらい、私の2時間ドラマ人生が始まりました」(片平、以下同)

■「やっぱりそこもツッコミどころですよね(笑)」

やがて片平は全局の2時間ドラマ枠で主演シリーズを持つに至り、「2時間ドラマの女王」の名を冠されるようになる。そんな彼女にとって、2時間ドラマの魅力は何だったのだろうか。

「2時間ではっきり答えが出るということが一つ大きいかなと思います。引きずらないんですよね。連ドラは連ドラの楽しみがあります。来週はどうなるのかなとか、早く来週の放送が見たいとか。でもやっぱり皆さんが忙しく生活していく中、またチャンネルも豊富に増えていく中、見るものがいっぱいで1話完結するドラマというのは、すごく気軽に楽しめるものでもあるんじゃないかって思うんです」

「あと、何かをしながら見ても2時間ドラマは理解できる。ところどころに何度もこれまでの説明が入ったりするので、途中から見ても内容が分かるじゃないですか。ですから見ている人たちにとって優しいんです。ハラハラ・ドキドキ引っ張る連ドラは見逃せない。でも2時間ドラマはちょっと見逃しても何とかなる。そういった良さもありますよね」

さらに抱くのは、安心感だ。『赤い霊柩車』シリーズで言えば、「幽玄な世界の中で明子が登場する冒頭、その後の師匠(大村崑)ともみちゃん(山村紅葉)の夫婦漫才。ラストは必ず婚約者の春彦さん(神田正輝)とのラブラブデートで終わる。この流れがあるから“あ、また始まった”というホッとした感じがある。ある種、“サザエさん的魅力”があります」と分析する。

  • 片平なぎさ(左)と神田正輝 (C)フジテレビ

そこで、「明子さんの昔の知人って、やたらと事件に巻き込まれますよね?」と聞いてみると、片平は「やっぱりそこもツッコミどころですよね」と笑う。このように2時間ドラマには、“ツッコミ”や“あるある”が多く盛り込まれており、『2時間ドラマあるある』(宝島社)によれば、「社長が社長室でパターをやっていたら犯人ではないが悪人である」「墓参りをしていると『やはりここだったのね』と見つかる」「早朝ジョギングしている人が死体を発見する」「山に死体を埋めるときは暴風雨」など、多くの人が共感する2時間ドラマでよく見る光景があるのだ。

これらが、先述の『赤い霊柩車』のお約束さながら“おなじみ化”して様々なドラマやバラエティ、コントなどでパロディに。ここまで浸透しているのは2時間ドラマが長く愛されてきたからに他ならない。40年以上の歴史がある中で、『赤い霊柩車』シリーズまでファイナルを迎えるのは何とも寂しい限りだ。