普段は舞台で手腕を発揮している谷氏にとって、今作はテレビドラマ初執筆作品。舞台と映像との違いについて聞いてみると、「舞台だとできない“小さな表現”を書けるのがうれしかったですね。例えば“手が震えている”とか。それって舞台だとどうしてもうまく表現できなくて、落ち着きがないみたいな動きに置き換えをしなきゃいけないんですけど、その小さな表現を書けるっていうのは興奮しましたし、たまらないなって思いました」と、醍醐味を語る。

そんな谷氏は今後、テレビドラマを多く手がけたいという野望を秘めており、「テレビのドラマのお仕事も積極的にやっていこうとアピールする予定です(笑)。僕はこれまで演劇でも映像的表現のような手法を取り入れていて、いろんな方に『映像に向いている』と言われていたということもありますし、演劇では“角を立たせること勝負”みたいなところがあって、そうしないと弾かれてしまう世界です。その舞台で培った“角を立たせた表現”を、自分の中ではサスペンスというものでくるむとテレビドラマとして皆さんに受け入れやすくなる、強みにもなるのかなとも思っています。これから自分の表現をテレビドラマの中で探っていきたいなと思っているところです」と意欲を示す。

今回、谷氏を起用した宮崎Pは、話題のユニット・ダウ90000の初冠ドラマ『ダウ90000 深夜1時の内風呂で』をプロデュースするなど、演劇人の才能がテレビで発揮される可能性を信じており、「僕は舞台がすごく好きで、いろんな劇団に足を運んでいるんですけど、舞台の可能性を、テレビにまだ少しでも力があるなら利用したいし、引っ張り込みたいという思いが強くあります」と話した。

■人間たちの吐く言葉が“エグい”

最後に、今作の見どころを聞くと、宮崎Pは「リアリティーがたくさん散りばめられていて、とにかく谷さんが描いたそこにいる人間たちの吐く言葉が“エグい”です。だから、見ていて人間が“怖い”と思えるホラーのような部分だったり、犯人は誰かと考察できるサスペンスとしてだったり、いろんな人が楽しめるような作りになっていると思います。また、いろいろな伏線を張っているつもりなので、全てが終わった後に、もう1回見ていただくと気付けるような作りにもなっているので、ぜひ最後まで見ていただきたいですね」とアピールした。

“インフルエンサー”が主人公で、“エグすぎる”、“考察型”のサスペンスドラマと謳っているように、若い視聴者が共感できるリアリティーがふんだんに盛り込まれた作品であることはもちろんだが、そうではない世代やSNSが身近にない人にとっても、自分から遠いツールで繰り広げられるからこその恐怖と、記憶喪失になってしまった主人公が自らを振り返ったとき、実は自分が得体の知れない人物だったことに気付く…という二重の恐怖を描くことで、丁寧な人間ドラマとして誰もが楽しめる作品に仕上がっている。1話30分の全3話(※最終話は1時間)というスピード感も心地いい。

●谷碧仁
1991年生まれ、愛知県出身。地元・愛知県の高校卒業を機に上京し、13年に劇団時間制作を一人で旗揚げ。脚本・演出の道へ進み、今に至る。

●柳沢凌介
1992年生まれ、長野県出身。立教大学を卒業後、15年にフジテレビジョン入社。『ダウ90000 深夜1時の内風呂で』『第33回フジテレビヤングシナリオ大賞 踊り場にて』『アンサング・シンデレラ ~新人薬剤師 相原くるみ~』(FODスピンオフ)などの作品を手がける。

●宮崎暖
1992年生まれ、東京都出身。早稲田大学を卒業後、15年にフジテレビジョン入社。『第34回フジテレビヤングシナリオ大賞 瑠璃も玻璃も照らせば光る」、『ダウ90000 深夜1時の内風呂で』、『アンサング・シンデレラ ~新人薬剤師 相原くるみ~』(FODスピンオフ)などの作品を手がける。