7日にスタートした関水渚主演のドラマ『#who am I』(フジテレビ、毎週火曜25:25~ ※関東ローカル)。何者かに突き落とされ記憶喪失となったインフルエンサーの主人公が、自分の発信していたSNSを頼りに、犯人、そして本当の自分=“who am I”を突き止めていく考察型サスペンスだ。

今作を手がけるのは、テレビドラマ初脚本となる「劇団時間制作」主宰の谷碧仁氏、『silent』の脚本家・生方美久氏のデビュー作『踊り場にて』で繊細な演出を見せた柳沢凌介監督、昨年月9『元彼の遺言状』でゴールデン帯ドラマのプロデュースデビューを果たした宮崎暖プロデューサー(※「崎」は正しくは立つ崎)の若手クリエイター3氏。この制作チームに、ドラマに込めた思いや見どころなどを聞いた――。

  • (左から)プロデューサーの宮崎暖氏、脚本の谷碧仁氏、演出の柳沢凌介氏

    (左から)プロデューサーの宮崎暖氏、脚本の谷碧仁氏、演出の柳沢凌介氏

■“SNSの今”を取材して見えてきたこと

今作の放送枠「火曜ACTION!」はこれまで、世界で実際に起きた愛憎劇が日本で起きたら?というifを起点に独自の物語に仕立てた『アイゾウ 警視庁・心理分析捜査班』や、生放送で完全ワンカットのストーリーを展開させる『生ドラ! 東京は24時』、VFXを用いた巨大生物“街”の生態を追うSFモキュメンタリー(フィクションのドキュメンタリー)『City Lives』など、次々と意欲的なドラマが放送されてきた。

宮崎Pは「『火曜ACTION!』は、若手に任せたいという方針があって、そのコンペで(柳沢)監督が書いた、“記憶喪失になったインフルエンサー女の子が、自分のSNSアカウントを使って、自分を探していく…”という本当にその3行だけの企画書が通ったのがきっかけになっています」と成立の経緯を説明。

その企画意図を柳沢監督に尋ねると、「SNSってつい5~6年前までは自己紹介みたいな自分と少し離れたものだったんですけど、最近では体に張り付いている一種の外見みたいな存在になったと思うんです。それを受け取る側は、投稿されている内容や着ている服装で、その人のバックボーンを想像しちゃう。だけど、それはある種操作されたものでもあるから、そこに “本当”はないんじゃないかなと思って。だから、発信している人自身が記憶をなくしたら、どうなってしまうのか。“本当はどこにあるのか”を探すドラマを作りたいなと思ったんです」と明かす。

  • 主演の関水渚 (C)フジテレビ

ただ、“3行の企画書”だけでもちろん全体像は出来上がっておらず、その段階で脚本を依頼された谷氏の反応はというと、「“むずっ!”って思いました(笑)。その3行のログラインには惹かれましたし、視聴者としては面白そう!と思いましたけど、作るとなると…。1回持ち帰って、どこからどうしようという感じになりましたね」と困惑したそうだ。

それでも、出来上がった作品は“ライブ配信の準備中”だからといってカノジョをほったらかすカレシや、写真を一緒に撮るだけの“#photofriends(フォトフレンズ)”なる存在、SNS上では付き合っている風を装う“ビジネスカップル”など、ディテールの積み重ねが秀逸。物語にのめり込ませる吸引力となっている。

■ロケバス稼働で劇中SNSの写真撮影へ

谷氏は、リアリティーを出すため、“SNSの今”について取材を重ねた。「“#photofriends”は創作なんですけど(笑)、様々なSNSで活動されている方に、何が古いのか何が新しいのか、結構深いところまで聞いていきました」という。その中で、「“いいね”の数を稼ぐっていうところで僕の中では止まっていたんですけど、コンテンツによっては“いいね”を稼がなくても、他の人と自分がどう差別化できているかが重要視されていることに驚きました」と、意外な発見があった。

さらに、「自分のブランディングを意識していて、“あなたがあなたでいる”ことを強いられる。それを継続させることの“しんどさ”をすごく感じました」と谷氏が語るように、このドラマは主人公が何者かによって突き落とされたことによる“犯人探し”に焦点を当てて楽しむ側面もあるが、リアルなディテールの積み重ねとともに、SNS上で繰り広げられている“知られざる実態”を目撃して恐怖を味わうことができる。

これについて、宮崎Pは「僕らが最初に話していたのは、SNSが悪いんじゃなくて、その道具を使う人間の使い方の問題だっていうところをちゃんとテーマに持とうということです。だから決してSNSを悪く描いているわけではなくて、それを使っている人間の悲しさとか、寂しさみたいなところを出そうと思いました」と強調した。

今作は脚本だけでなく、映像にもこだわりが随所に見られる。その一つが、劇中に登場するSNSの作り込みだ。“作られたもの”と視聴者にバレてしまえば途端にリアリティーが失われてしまうが、インフルエンサーである主人公が投稿した写真や動画はもちろん、枝葉のようにつながっている多くのフォロワーたちの1枚1枚にも丁寧な作り込みが施されている。

柳沢監督は「めちゃくちゃ撮りました(笑)。撮影入る前に役者さんを呼んで、ロケバスを出してスチール(写真撮影)ロケをしたくらいです。景色のいい場所や、“映える”ところでたくさん撮影をしました。やっぱりSNSをテーマにした作品ですし、記憶喪失になる主人公の唯一の情報源なので、そこは“ちゃっちく”したくなかったですし、ウソのないインフルエンサーを作りたかったんです」と教えてくれた。