また、生体内でゆっくりと加水分解されるため、引張強さが半減する期間はおよそ4か月であり、また縫合部周囲の炎症が生じにくい可能性があることが示唆されたことも併せて発表された。
名古屋大学(名大)と三菱ガス化学の両者は3月10日、新規生体吸収性材料「ポリヒドロキシアルカノエート」(PHA)製の「高伸縮性吸収性モノフィラメント縫合糸」の試作品が、既存製品にはない高い伸縮性と柔軟性を持っており、なおかつ結び目が小さくて緩みにくいという優れた点を持っていることがわかったことを共同で発表した。
また、生体内でゆっくりと加水分解されるため、引張強さが半減する期間はおよそ4か月であり、また縫合部周囲の炎症が生じにくい可能性があることが示唆されたことも併せて発表された。
同成果は、名大大学院 医学系研究科 人間拡張・手の外科学の村山敦彦病院助教、同・米田英正助教、同・山本美知郎教授、同・大学 個別化医療技術開発講座の平田仁特任教授らと、三菱ガス化学、河野製作所の産学共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
手術用縫合糸は「モノフィラメント縫合糸」と「ブレイド縫合糸」にまず分類され、それぞれがさらに「生体非吸収性」と「生体吸収性」いずれかに分類される。つまり大別すると4種類あり、各用途に合わせて選ばれている。
皮下に埋められた縫合の場合に好まれるのが、生体吸収性モノフィラメント糸だ。滑らかな表面が組織の損傷を減らし、残留する異物を避けられることが理由である。ただし、同糸の既存製品は柔軟性に欠け、結び目が緩みやすく大きくなるという課題を抱えていた。また、生体吸収性モノフィラメント縫合糸市場は規模が大きいものの、海外の極少数の製品が市場を占有しているという。日本の医療現場でも、そうした海外製品に頼っているのが現状だったとする。
このような背景のもとで着目されているのが、主にグルコースを炭素源として微生物の体内で合成される生分解性プラスチックのPHAだ。その分解によって生じる「3-ヒドロキシブチレート」(3HB)や「4HB」などの「ヒドロキシ酸」は、ヒトを含む生体内に広く存在し、最終的には水とCO2に分解されるために生体適合性が高い。しかし現在製品化されている「P(4HB)」を用いた縫合糸は、上述した課題を克服するには至っていないという。
生体吸収性ものフィラメント糸における3HBと4HBの割合を変化させることで、柔軟な特性を持つことはすでに知られていた。しかし、それらの共重合比率を一定に保ちつつ、かつ高分子量のポリマーを安定して培養するには、技術的に困難だったとする。また、紡糸法にも課題があったという。そのため、これまで「P(3HB-co-4HB)」を用いた医療機器は開発されていなかった。そこで研究チームは今回、P(3HB-co-4HB)の精製法や紡糸法を独自に確立し、一定の強度と柔軟性を併せ持った吸収性縫合糸の試作品を開発したという。