外部からの獲得と社内育成の両輪でデュアル人材確保へ
2つの領域をつなぐことができるデュアル人材の重要性が高まる今、メカトロニクスの領域に軸足を据えてきたデンソーは、EV社会に向けてソフトウェア面での上積みを必要としている。その手段として、社外パートナーとの協業や新規人材の獲得を行うとはするものの、協業はあくまでアウトソースであるため本質的な解決とは言えず、優秀な人材の獲得もそう簡単に実現できるものではない。
このことからデンソーは、外部からの人材獲得と並行して、社内人材の育成に注力している。具体的なプランは、社内のハードウェアエンジニアを約1000人規模でソフトウェア人材へと転身させる、というものだ。原氏によると、この動きは、単なるソフトウェア人材不足の解消だけでなく、もともとハードウェアの知見を持っているソフトウェア人材、つまりデュアル人材の成長につなげることが狙いだという。
そのために開始されたのが、「キャリアイノベーションプログラム」という取り組みだ。社員自らキャリアを描くことを目的に始動したこのプログラムでは、客観的な能力把握となる「ソムリエ認定制度」と、キャリア志向に合わせた活躍の場を提供する「アサインプロセス」を設定。両段階の合間にはリカレントプログラムや上位者が教育を提供するバディ制度を用意し、キャリア自律を後押しする環境づくりを行っているとのこと。
原氏は、このような社内教育によってデュアル人材を育成することで、「本人のキャリアにとってもメリットがあり、会社としてもこれから必要な技術人材にも適応するだろう」としている。
社会貢献と個人の輝きの両方を最大化することが重要
原氏はインタビューを通じて、「個が輝く」という言葉を繰り返す。「会社はあくまで社員が輝くための舞台」という言葉にもある通り、社員個人にとってのやりがいやエンゲージメントがあってこそ、企業としての大義が果たせると考えているという。
だが、個人の輝きや利益だけを追求することは企業としての本質ではないとする。「社会への貢献ができても個人が輝いていないようでは、持続可能な価値提供とは言えない。また、個人が輝いていても独りよがりであったら、それは意味があるとは言えない。だからこそ、個人の輝きと社会貢献の両方が重なり合う部分をなるべく増やすことが重要だと考えている」とのことだ。
だが、個人の活躍や人材の流動化を強調することによって、転職という道を選び旅立つ人も増えるのではないだろうか。実際に社内からも、同様の懸念が寄せられているという。
しかし原氏は、この点を意に介してはいない。むしろ「個人が生き生きせずエンゲージメントが低い方が、離職率は高くなる」と話したうえで、「会社として多彩な活躍の舞台を用意したうえで、それが個人のやりたいこととうまく結びつけばいいことだし、一方でデンソー以外に夢をかなえる場所があれば、それも後押ししたい」とする。
「まず会社としてやらなくてはいけないのは、とにかくいろんな活躍の機会を準備すること。多彩なフィールドのどこかには、誰しも活躍する場所があると信じている。我々はそういった舞台を用意することで、『選ばれる企業』になっていきたい。」
原氏が推進する人材戦略改革は、まだ始まったばかり。急速に変化する社会からのニーズに応えるため、組織という舞台で人を輝かせることで、デンソーは価値を提供していく。