回を増すごとに大きな反響となっているNHKドラマ10『大奥』(毎週火曜22:00~22:45)。男女逆転の大奥を描いたよしながふみ氏の同名コミックを実写化ドラマ化した本作。企画の発端はいまから遠くさかのぼること十数年ほど前だったという。そこから令和のいま、ドラマ化に至った経緯とは――。企画の生みの親である岡本幸江プロデューサーに話を聞いた。
公共放送という立場を持つNHK。十数年前から局内の課題として挙がっていたのが、視聴者層の年齢の幅を広げるということ。
「ちょうどいまから十数年前に、視聴者層を広げるためにはどうしたらいいのか――という勉強会やプロジェクトが局内で立ち上がっていたんです。じっくりと落ち着いて楽しんでいただくドラマ、鑑賞後感がしっかりとあるドラマでそれが実現できないかという思いのなか出合ったのが、よしながふみさんの『大奥』でした。当時5~6巻ぐらい発売されていたのですが、非常にショッキングな設定でありつつ、人との繋がりや人間の本質に深く突き刺さる物語は、非常に魅力的だなと感じました」
作品に魅せられ、ドラマ化も提案したが、その当時すでに映画化や民放でのドラマ化も進んでおり、いったん企画は流れたという。その後、3年前に岡本プロデューサーが「ドラマ10」の編集長を務めることになったとき、ドラマ10の方向性についてもう一度考え直す時期に差し掛かっていたという。
「ちょうどコロナ禍でドラマ作りも止まってしまっていた時期でもありました。世のなかもかなり緊張感が溢れており、ドラマを観るときぐらい、個人的にも日常の窮屈さを忘れたいと思っていたんです。そんなとき、よしながさんの『大奥』が完結を迎え、改めて最後まで拝読したとき、日常を忘れられる作品だなと感じました。ダイナミックな設定ながら、登場人物にはとても感情移入できる普遍的なものがあった。ぜひとも原作の最後までドラマ化したいと思いました」
■新鮮さや驚きを与える将軍役の女優たちの起用
漫画の連載がスタートした時期から、終了まで16年の歳月が流れた。岡本プロデューサー自身も、当初から作品の見え方が少しずつ変わってきたという。
「連載当初は、男女逆転で世の中の役割が見えるというのは、ものすごい作品だなと感じていました。改めて作品が完結して、最後まで読ませていただくと、男だから女だからというより、血縁のような繋がりでなにかを維持していかなければいけないという捉え方は、非常に不自由なものなんだというメッセージを受け取りました」
そんなメッセージをしっかりと伝えるためのキャスティングも重要だ。本作では、8代将軍・徳川吉宗役の冨永愛、3代将軍・徳川家光役の堀田真由、さらに5代将軍・徳川綱吉に仲里依紗を起用。
「通常の江戸時代を描く大河ドラマなどでは、絶対に女性が将軍をやることがない逆転の世界なので、どこか新鮮さや驚きみたいなものが、作る側も演じる側にも必要だと思いました。冨永愛さんはパリのランウェイを歩いているような人。その人が将軍なんてすぐには想像つかないのですが、ご本人もすごく前向きに考えてくださいました。仲里依紗さんも、俳優としてのキャリアや演技は抜群ですが、時代劇のイメージはない方、堀田真由さんもしっかりとした実力がある俳優さんですが、柔らかいイメージがあったので、ある意味でサディスティックな役を演じていただけるのは新鮮だなと感じていただけると思いました」
新鮮さや驚きを与える将軍たちの一方で、大奥総取締・藤波を演じる片岡愛之助、桂昌院役の竜雷太、右衛門佐役の山本耕史など、重厚感ある俳優たちが出演しているのも魅力の一つだ。
「新鮮さを求めた将軍たちを支える人たちは、貫地谷しほりさんや斉藤由貴さんなど、NHKの時代劇でもお世話になっている心から信頼できる方々にお願いしています。竜雷太さんも片岡愛之助さんも、山本耕史さんも、本当に心情の普遍性に根拠を与えてくださる芝居をしていただけています」