電子データ配布までのいろいろ
土地利用の基盤情報のひとつだが利用しにくかった登記所備付地図が変わるきっかけは、2018年2月の未来投資会議 構造改革徹底推進会合「地域経済・インフラ」会合(農林水産業)だ。この場では、農業事業者などから「まとまった区域の登記所備付地図の電子データを相応の対価で入手したい」という要望が出された。
なぜ農業なのか。その背景には、農林水産省が推進していた「eMAFF地図(農林水産省地理情報共通管理システム)」がある。農業は土地の管理が基本にあるため、農地台帳、水田台帳といったデータベースと農地の現場情報をデジタル地図上で統合し、農業に関わるさまざまな事務作業の効率化を進めている。このデジタル地図整備の上では、土地の区画、位置、面積といった情報が必須だが、自治体がこの情報を取りまとめるのにこれまで大変な手間がかかっていたのだという。
農業や地域の課題解決を目指す岐阜大学発のベンチャー企業「サグリ」の代表を務める坪井俊輔さんによると、「農地のデータも大元は登記簿です。各市区町村の農業委員会はこれまで、登記簿の区画情報を取り寄せて地番図というものを作り、これを農地区画台帳と突合してデジタルの農地情報『農地ポリゴン』を整備していました。ですが、地籍調査をきちんと行った地図ばかりではなく、農地では日本の3割、宅地では5割が不正確な公図のまま残っています。緯度経度もついていないので、区画どうしが合っていないことも多かったのです」という。きちんとした調査の上に地図が整備されなければ農地情報のデジタル化も進まず、またデータの入手方法にも大きな課題があったわけだ。
登記所備付地図の電子データについては、農業以外の分野でも活用が期待されることから、当初は2021年度までに公開という方針が示された。結果的には2022年度になったわけだが、「本当に公開されるぞ」という情報が流れたのは2023年1月17日ごろ。新聞各紙が公開について報道し、1月20日に法務省から急遽「来週月曜日に公開する」と発表があった。GIS勢の期待は一気に高まった。
そして1月23日の正午、社会基盤情報流通推進協議会が運用するG空間情報センターで、公開が開始された。当初はアクセス集中のためかサーバダウンもあったが、現在は復旧している。
ここでは、たとえば東京都では62件のデータが公開されている。データはXML形式で、そのままではGISツールに読み込めないため、デジタル庁からGISデータとして利用しやすいGeoJSON形式に変換するツールが提供されている(農林水産省が開発したコンバータを改良したもの)。データの中には任意座標系しか含まれておらず、表示させて見るとアフリカ沖に表示されたりするトラブルがおきた例も報告されているものの、5年かけた新たなオープンデータの登場はおおむね好評のようだ。